「保温保冷 特定技能」での採用を検討中の企業さま向けに、最新制度に合わせて要点だけをわかりやすく整理しました。
建設分野の特定技能は、2019年4月に創設された在留資格で、即戦力となる外国人材の受け入れを目的としています。直近の制度運用では、建設分野の受入れ見込数が5年間で最大8万人とされ、人材確保の重要な手段となっています。
また、建設分野の業務区分は「土木」「建築」「ライフライン・設備」の3区分へ再編。保温・保冷(熱絶縁)は「ライフライン・設備」に含まれ、同区分内での柔軟な配置が可能になりました。
受入企業はJAC(建設技能人材機構)への加入が必須で、制度に沿った受入れ・支援体制の整備が求められます。
この記事でわかること
本記事では、特定技能「保温保冷」の採用を検討する企業の人事・採用担当者向けに、制度の仕組みや対象業務、評価試験の内容、採用ルート、そして受け入れに必要な手続きや社内体制の整え方までをわかりやすく解説します。
この記事を読むことで、採用計画を自信を持って進めるために必要な知識を一通り整理できるでしょう。
特定技能「保温保冷」の基本概要

ここでは、特定技能「保温保冷」を採用するにあたって押さえておきたい基本事項を整理します。
制度が導入された背景や建設分野における位置付け、そして現在の外国人材の活躍状況を理解しておくことで、自社の採用計画をより現実的かつ効果的に立てることができます。まずは制度の成り立ちと現状をしっかり把握しておきましょう。
制度がつくられた背景
建設業界では職人の高齢化や若手の減少により、人手不足が深刻化しています。特に専門技術を必要とする「保温・保冷(熱絶縁工事)」は人材確保が難しく、現場の生産性や品質に直結する課題となってきました。
こうした背景から、2019年4月に外国人材を即戦力として受け入れるための特定技能制度が創設され、建設分野もその対象に含まれることになりました。
建設分野における位置付け
特定技能制度では、建設分野は12の特定産業分野の一つに位置づけられています。
2023年の制度改正により、それまで細かく分かれていた19職種は「土木」「建築」「ライフライン・設備」の3つに再編され、保温・保冷工事は「ライフライン・設備」に含まれるようになりました。
これにより、同区分内で配管や電気設備などと横断的に人材を活用できるようになり、現場での柔軟な配置や効率化が進めやすくなっています。
関連記事:建設分野で特定技能人材の採用を考えている方へ!受け入れ条件や押さえておくべきポイントを解説!
外国人材の活躍状況
実際にどれくらいの外国人材が特定技能として建設分野で働いているのでしょうか。法務省が公表した最新統計(令和6年12月末現在)によれば、建設分野全体で38,365人の特定技能1号外国人が在留しています。
その内訳は「土木」21,784人、「建築」14,180人、そして「ライフライン・設備」2,401人となっており、保温・保冷(熱絶縁)工事を含むライフライン・設備区分でも着実に人材が活躍しています。
この数字はまだ全体の一部に過ぎませんが、制度開始から数年で確実に人材が増えてきていることが分かります。
特に技能実習から特定技能へ移行するケースが多く、現場での経験を積んだ即戦力人材が保温・保冷の分野でも戦力化している点は、企業にとって大きなメリットといえます。
参照:出入国在留管理庁|特定産業分野・業務区分別 特定技能1号在留外国人数(令和6年12月末現在)
特定技能「保温保冷」で認められる対象業務

特定技能外国人が保温・保冷分野で従事できる仕事は、制度上明確に定められています。採用担当者としては「どの作業を任せられるのか」「逆に任せられない仕事は何か」を理解しておくことが不可欠です。ここでは、できる業務とできない業務を整理して解説します。
特定技能でできる業務
保温・保冷(熱絶縁)工事に関連する以下の作業が認められています。
- 熱絶縁工事の施工:配管・ダクト・タンクなどに保温材・保冷材を取り付ける作業
- 外装仕上げ(ラッキング):保温材・保冷材の上から金属板を被せて固定する作業
- 付随作業:材料や部品の運搬、工具や機械の整備、足場の組立、作業後の片付け・清掃など
これらは指導者の指示・監督のもとで行うことが前提です。単なる補助ではなく、省エネや安全性に直結する重要な役割を担います。
特定技能でできない業務
一方で、特定技能の在留資格では以下の業務は認められていません。
- 設計や施工管理:図面の作成、工事全体の工程管理、現場監督など
- 高度な判断を要する業務:安全管理の最終責任や独立した監督業務
- 他分野の専門工事:ライフライン・設備区分以外(例:建築・土木固有の作業)のみを担当すること
つまり、特定技能外国人は現場で手を動かす実務担当者として活躍できますが、工事全体の責任や専門外の作業は任せられません。企業としては、業務範囲を誤解せず、安全に配慮した役割分担を行うことが求められます。
特定技能「保温保冷」の評価試験
特定技能の在留資格を得るには、保温・保冷(熱絶縁工事)の専門技能を確認する技能試験と、現場で最低限のコミュニケーションを行うための日本語試験に合格する必要があります。
これにより、採用担当者は「どの程度の作業が任せられるか」「どの程度日本語が通じるか」を事前に把握することができます。また、日本国内で技能実習を修了した人材については、試験が免除される移行ルートがあり、即戦力採用に直結しています。
技能試験
技能試験では、保温・保冷工事に必要な基礎的な知識と施工手順を理解しているかが確認されます。出題内容は、配管やダクトへの断熱材・保冷材の取り付け、安全な工具の使用方法、施工精度や仕上がりの理解などです。合格者は「指導者の監督のもとで一通りの現場作業を遂行できるレベル」であることが担保されるため、採用時に技能の基礎水準を安心して評価できます。
日本語試験
日本語要件としては、JFT-Basicまたは日本語能力試験(JLPT)N4以上の合格が必要です。
N4レベルは「基本的な日常会話ができ、現場での指示を理解できる程度」とされ、作業内容の説明や安全確認の声掛けなどに対応できる水準です。現場での最低限の意思疎通が可能であるため、採用企業は日本語面での不安をある程度軽減できます。
技能実習からの移行ルート
日本国内で技能実習2号を修了した人材は、特定技能への移行が可能で、この場合技能試験・日本語試験が免除されます。
技能実習で3年以上の経験を積んでいるため、日本の現場作業や生活習慣に慣れており、即戦力としての活躍が期待できます。法務省の統計でも、特定技能外国人の大半が技能実習からの移行者であり、企業にとっては最も現実的で採用しやすいルートとなっています。
特定技能「保温保冷」人材の採用ルート

特定技能の人材を確保する方法は大きく分けて3つあります。海外から新規に採用する方法、日本国内で技能実習を修了した人材から移行する方法、そして留学生など他の在留資格を持つ人材から切り替える方法です。
採用までにかかる期間や手続きの複雑さがそれぞれ異なるため、自社のニーズや採用計画に合わせて最適なルートを選ぶことが重要です。
海外から新規採用する場合
海外の候補者を新規に呼び寄せるルートです。現地の送出機関や日本の登録支援機関を通じて候補者を探し、雇用契約を結んだ上で、在留資格認定証明書の申請や現地でのビザ取得を経て来日する流れになります。
技能試験・日本語試験に合格している必要があるため、候補者選定から入社まで半年~1年程度かかるのが一般的です。時間はかかりますが、幅広い候補者層から人材を確保できるのがメリットです。
技能実習から移行する場合
最も一般的で効率的な方法が、日本国内で技能実習2号を修了した人材の移行です。このルートでは技能試験・日本語試験が免除されるため、スピーディーに特定技能への切り替えが可能です。
すでに日本での生活習慣や現場環境に慣れているため、入社後すぐに即戦力として活躍してくれる点も大きな魅力です。法務省の統計でも、特定技能外国人の大多数が技能実習から移行しており、現実的かつ安定した採用ルートといえます。
国内在留資格から切り替える場合
すでに日本に滞在している留学生や家族滞在などの在留資格を持つ人材が、特定技能に移行するケースもあります。この場合は原則として技能試験・日本語試験の合格が必要ですが、日本語能力が比較的高い人材を確保できるのが強みです。
例えば、建設系の専門学校を卒業した留学生は基礎知識を持っている場合が多く、試験合格をサポートすることで将来の即戦力へと育成できます。国内在住者を対象にすることで、採用までの時間を短縮できる可能性もあります。
特定技能「保温保冷」人材を受け入れるための手続き
特定技能人材を採用するには、企業が満たすべき基準や、国への申請手続き、そして採用後の支援・届出など、いくつかのステップがあります。ここでは大きく3つに分けて解説します。
受け入れ企業に求められる基準
特定技能外国人を雇用するためには、企業自身が一定の条件を満たす必要があります。
例えば「熱絶縁工事業」の建設業許可を取得していること、社会保険や労働保険に加入していること、外国人雇用で過去に不正がないこと、そして一般社団法人 建設技能人材機構(JAC)に加入していることなどです。
これらは全て、外国人材が安心して働ける環境を保証するために欠かせない基準です。
必要な申請と手続き
受け入れの際には、まず建設特定技能受入計画を作成し、国土交通省の認定を受ける必要があります。この計画には、仕事内容や労働条件、給与水準(同等の日本人と同等以上)を明記し、証明書類を添付することが求められます。
認定後は、出入国在留管理庁へ「在留資格認定証明書交付申請」や「在留資格変更許可申請」を行います。申請には雇用契約書、認定通知書、会社の登記簿、社会保険加入証明、技能試験合格証または技能実習修了証など、多数の書類が必要です。
採用後の支援と届出義務
採用後も、企業には外国人材を支援する義務があります。生活ガイダンス、住居確保、生活相談、日本語学習機会の提供など、法律で定められた10項目を実施する必要があります。
また、雇用状況や支援内容を定期的に入管へ報告し、雇用契約の変更や退職があった場合は14日以内に届出を行うことも義務付けられています。これらを怠ると罰則や受け入れ停止につながるため、体制を整えておくことが重要です。
特定技能「保温保冷」採用後の社内体制
採用手続きが完了しても、外国人材が長く安心して働き続けるには、受け入れ後の社内体制づくりが欠かせません。ここでは、企業が取り組むべき3つのポイントを解説します。
適切な支援体制の構築
特定技能外国人の定着には、入社後の支援が大きく影響します。出入国在留管理庁は、生活ガイダンスや住居の確保、日本語学習機会の提供、定期的な面談など、法律で定められた10項目の支援を義務付けています。
特に、現場の上司や支援担当者と3か月ごとに面談を行い、仕事や生活での困りごとを確認することが重要です。自社で全て対応できない場合は、登録支援機関に委託することで、多言語対応や生活サポートをスムーズに行えます。
建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録
建設業界では、技能者のキャリアや資格を一元管理する建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録が求められます。特定技能外国人も日本人と同様に登録し、ICカードを用いて現場での就業履歴やスキルアップ状況を記録します。
これにより、本人の成長や成果を客観的に評価でき、公正な給与設定やキャリア形成に繋がります。企業にとっても、技能レベルを把握して適切に配置・育成できるメリットがあります。
公正な報酬・待遇の確保
特定技能制度の大原則は「日本人と同等以上の処遇」です。給与水準は同等の職務・経験を持つ日本人社員と同等以上でなければならず、賃金規程や給与明細で証明できる必要があります。
また、福利厚生や休暇制度などについても差別的な取り扱いは認められません。外国人材に対しても公平な評価と待遇を保証することで、働く意欲を高め、会社全体の生産性向上につながります。
まとめ
特定技能「保温保冷」の採用は、建設業界の人手不足を解消する有効な手段であり、制度の正しい理解と準備が成功の鍵となります。
技能試験と日本語試験により人材の基礎力が担保されているため、現場で即戦力として活躍できることが期待できます。特に技能実習からの移行はスムーズで、企業にとって現実的かつ効率的な採用ルートです。
一方で、受け入れ企業には建設特定技能受入計画の認定や在留資格申請、採用後の支援や待遇の確保など、多くの責任と義務があります。これらをきちんと整えることで、外国人材が安心して働き続けられる環境が実現し、会社全体の生産性や信頼性の向上にもつながります。
外国人材を単なる労働力としてではなく、共に成長するパートナーとして迎える姿勢こそが、持続的な組織づくりの基盤となるでしょう。