特定技能ビザの申請手続きは複雑で、必要書類も多岐にわたります。申請書類の不備は審査の遅延や申請拒否につながる可能性があるため、慎重な準備が必要です。本記事では、管理職の方向けに、特定技能ビザの申請に必要な書類と手続きの流れを詳しく解説します。法務省の最新情報に基づき、申請を成功させるためのポイントをお伝えします。
特定技能関係の申請・届出様式一覧(出入国在留管理庁)から必要書類の雛形をダウンロードできます。
特定技能とは?管理職が知っておくべき基本情報

特定技能は、深刻な人手不足に対応するため、2019年4月に新設された在留資格です。この資格は特定の業界で即戦力となる技能と一定水準以上の日本語能力を有する外国人材の受け入れを目的として設立されました。
特定技能1号と特定技能2号の2種類があり、主に特定技能1号での受け入れが一般的となっています。以下では、管理職として押さえておくべき基本的な情報を解説していきます。
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特定技能制度の設立背景と概要
特定技能制度とは、特定産業分野における人材不足を補うために創設された在留資格です。法務省の統計によると、2023年時点で約11万人が特定技能ビザで日本に在留しています。
在留期間は特定技能1号が最長5年、特定技能2号は更新回数に制限がないのが特徴です。家族の帯同については、特定技能1号では原則として認められませんが、特定技能2号では配偶者と子どもの帯同が可能です。技能実習制度と異なり、最初から働き手としての受け入れを想定している点が大きな特徴です。
2023年の法務省の発表によると、特定技能外国人の受け入れ見込数は、2024年度末までに最大約34万5千人、2025年の4月から5年間で82万人の受け入れとなっています。
引用:「出入国在留管理庁」特定技能制度の受入れ見込数の再設定(令和6年3月29日閣議決定)
特定技能の対象となる産業分野と申請条件
特定技能ビザの対象となる産業分野は、2025年2月時点で以下の16分野が指定されています。
- 介護
- ビルクリーニング
- 工業製品製造業(素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野)
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
- 自動車運送業
- 鉄道
- 林業
- 木材産業
申請条件としては、以下の要件を満たす必要があります。
1. 18歳以上であること
2. 各分野で定められている技能試験に合格していること
3. 日本語能力試験N4以上または同等の日本語能力を有すること
4. 技能実習2号を修了している場合は、技能試験及び日本語試験が免除される
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特定技能ビザ申請に必要な書類の全体像
特定技能ビザの申請には、大きく分けて申請人(外国人材)に関する書類と受入れ機関(企業)に関する書類が必要です。書類の準備には通常1~2ヶ月程度かかるため、計画的な準備が重要です。
申請人(外国人材)に関する書類
申請に必要な基本的な書類は以下の通りですが、時期や特定技能1号と2号によっても必要となる書類は異なるため出入国在留管理庁のHPを確認しましょう。
番号 | 必要書類 | 備考 |
---|---|---|
1 | 返信用封筒(宛名・宛先を明記、必要な郵便切手を貼付) | 在留諸申請提出用。 |
2 | 特定技能外国人の在留諸申請に係る提出書類一覧表(本表) | HP掲載資料に基づき作成。 |
3 | 在留資格認定証明書交付申請書 | 別紙記載の参考書式に基づく。 |
4 | 特定技能外国人の報酬に関する説明書 | 賃金規定に基づき報酬を決定した場合のみ提出が必要。 |
5 | 特定技能雇用契約書の写し | 申請人が十分に理解できる言語で記載されたものを提出。 |
6 | 雇用条件書の写し | 1年単位の変形労働時間制を採用している場合、別途資料(年間カレンダーや協定書の写し)を添付。 |
7 | 賃金の支払いに関する資料 | 申請人が理解できる言語で記載する必要あり。 |
8 | 雇用の経緯に関する説明書 | 雇用契約の成立をあっせんする者がいる場合は「人材サービス総合サイト」の資料を印刷して添付する。 |
9 | 徴収費用の説明書 | 徴収費用がある場合、具体的な詳細を記載する必要あり。 |
10 | 健康診断個人票 | 日本語翻訳を添付。医師が発行した診断書が必要。 |
11 | 受診者の申告書 | 申請人が十分に理解できる言語で記載したものを添付。 |
12 | 1号特定技能外国人支援計画書 | 支援計画の詳細を記載する必要がある。 |
13 | 登録支援機関との支援委託契約に関する説明書 | 支援計画を登録支援機関に委託する場合にのみ必要。 |
14 | 二国間取決において定められた遵守すべき手続に係る書類 | 特定国籍(カンボジア、ベトナム等)のみ提出が必要。 |
特に健康診断個人票は、日本の医療機関で受診するか、海外の医療機関で受診した場合は日本語訳を添付する必要があります。また写真については、3ヶ月以内に撮影された4cm×3cmサイズのものを用意しなければなりません。
これらの書類は不備があると申請自体が受理されない可能性があるため、慎重に準備を進める必要があります。
所属機関に関する提出書類
所属機関(雇用する企業)側で準備する書類も重要です。主な書類としては、特定技能所属機関概要書、登記事項証明書、業務執行に関与する役員の住民票の写し、労働保険料等納付証明書などが必要となります。
番号 | 必要書類 | 補足・条件 |
---|---|---|
1 | 特定技能所属機関確認書 | 添付資料として以下を含む: 1.「受け入れた中長期在留者リスト」(様式第1-1-11~29) 2.「在留者総数に占める中長期在留者の割合に関する書類」(様式第1-1-20) |
2 | 誓約書 | ・特定技能に関する役員の任意届の写し。 ・本籍地の記載がある場合が求められることもあり。 |
3 | 特定技能雇用契約書 | ・すべての項目が記載されたものを提出。 |
4 | 受け入れの申請経緯に関する書類 | ・受け入れの経緯を詳細に説明するための文書を提出。 |
5 | 受け入れ状況に応じた書類 | 以下の条件に応じて書類を準備する必要あり: – A) 初めての受け入れの場合 → 労働環境情報提供資料 – B) 受け入れ中(環境変更なし)→ 特段の追加書類不要 – C) 受け入れ中(環境変更あり)→ 新しい就業環境に関する書類を追加提出 |
6 | 特定技能外国人支援計画書 | ・支援計画が「2年以上」の期間をカバーしている必要あり。 |
7 | 登録支援機関の契約書 | ・登録支援機関を利用している場合は契約書の写しを提出。 |
8 | 健康診断結果書 | ・初年度の場合、健康診断結果書が必須。 |
9 | 契約期間に関する書類 | ・契約期間が「1年以上」であることを示す証明書類を添付。 |
特に注目すべき点として、登記事項証明書は申請時から3ヶ月以内に発行されたものでなければならず、役員の住民票には本籍地の記載が必要です。
また、納税証明書類については直近2年分の提出が求められ、未納がある場合は申請が認められない可能性があります。これらの書類は、受入れ企業が適切な雇用環境を提供できる体制を持っているかを確認するためのものです。
産業分野別に必要な追加書類
産業分野によって追加で必要となる書類があります。
- 介護分野: – 介護施設の概要書 – 研修実施計画書 – 介護保険事業者の指定通知書
- 建設分野: – 建設業許可証の写し – 工事施工実績を示す書類 – 安全衛生管理体制に関する書類
- 農業分野: – 農地の権利を証する書類 – 生産・販売実績を示す書類 – 農業経営改善計画認定書
特定技能の書類準備で陥りやすい3つの落とし穴
特定技能の申請手続きでは、多くの企業が書類準備の段階でつまずきがちです。本見出しでは、特定技能の申請書類準備において注意すべき落とし穴と対策について解説します。
書類の準備期間が足りずに在留期限切れになるケース
特定技能の申請には20種類以上の書類が必要で、準備に時間がかかります。
特に企業側が用意する書類は、労働保険料の納付証明書や役員の住民票など、取得に時間を要するものが多くあります。在留期限の4ヶ月前から準備を始めないと、期限切れのリスクが高まります。また、申請書類に不備があった場合の修正期間も考慮する必要があります。余裕を持って準備することで、スムーズな申請手続きが可能になります。
外国語版の契約書類を軽視してしまうケース
特定技能雇用契約書や雇用条件書などの重要書類は、必ず日本語と申請人の母国語を併記する必要があります。母国語版を軽視すると、外国人材との間で雇用条件の認識に齟齬が生じ、トラブルの原因となります。
出入国在留管理庁のホームページには10カ国語の様式が用意されているので、必ず申請人の母国語版を使用しましょう。また、契約内容を口頭でも母国語で説明することで、より確実な理解を促すことができます。
公的義務の履行状況を確認せずに申請してしまうケース
特定技能の申請では、企業と外国人材の双方に対して、税金や社会保険料などの公的義務の履行が厳しくチェックされます。
特に更新申請時には、前回の申請時に提出した誓約書の内容が守られているかどうかが審査の重要なポイントとなります。滞納があると不許可になる可能性が高いため、申請前に必ず納付状況を確認し、未納がある場合は速やかに対応する必要があります。また、四半期ごとの定期届出などの義務も忘れずに履行しましょう。
特定技能ビザの申請手続きの流れ
申請手続きは国内からの申請と国外からの申請によって複数のステップに分かれており、それぞれの段階で適切な対応が求められます。
海外からの申請手続きの流れ

海外在住の外国人が特定技能ビザを申請する場合、まず技能試験と日本語試験に合格する必要があります。その後、雇用契約を締結し、在留資格認定証明書の交付申請を行います。
証明書が発行されたら、母国の日本大使館でビザ申請を行い、許可が下りてから来日することができます。申請から許可までは通常2-3ヶ月程度かかるため、余裕を持った準備が必要です。
関連記事:在留資格認定証明書とはどんな書類?取得方法や交付申請の流れを解説
国内での申請手続きの流れ

すでに日本に在留している外国人の場合は、在留資格変更許可申請という形で手続きを進めます。
技能試験・日本語試験への合格後、雇用契約を締結し、必要書類と共に在留資格変更許可申請書を出入国在留管理局に提出します。審査期間は平均で30日〜45日程度ですが、書類の不備があると時間がかかる可能性があるため、慎重な準備が求められます。
特定技能ビザ申請で押さえるべき注意点
特定技能ビザの申請には様々な注意点があります。申請を円滑に進めるため、以下の重要ポイントを確認していきましょう。
申請前の準備で必ず確認すべきポイント
申請前の準備が不十分だと、手続きに支障をきたす可能性があります。以下の3点は特に重要なチェックポイントです。
- 雇用条件が労働関連法規に違反していないかを確認する
- 特定技能外国人に対する支援計画が適切に策定されているか
- 申請者本人の要件(技能試験合格や日本語能力など)が揃っているか
まず、雇用条件が労働関連法規に違反していないかを確認する必要があります。特に給与額は日本人と同等以上であることが求められ、この条件を満たさないと申請は許可されません。次に、特定技能外国人に対する支援計画が適切に策定されているかを確認します。住居の確保や生活オリエンテーション、日本語学習支援など10項目の支援内容を具体的に記載する必要があります。
最後に、申請者本人の要件(技能試験合格や日本語能力など)が揃っているかを確認します。これらの準備が整っていないと、申請書類の受理すらされない可能性があるため、慎重に確認を行いましょう。
申請書類作成時の重要な留意事項
申請書類の作成には細心の注意が必要です。不備があると申請が不許可になるリスクがあるためです。
- 全ての書類は申請日から3ヶ月以内に発行されたもの
- 外国語で作成された書類には日本語訳を添付すること
- 支援計画書では10項目の支援内容を具体的に説明する
まず基本的な注意点として、全ての書類は申請日から3ヶ月以内に発行されたものを使用する必要があります。また外国語で作成された書類には日本語訳を添付することが必須です。特に重要なのが「雇用条件書」と「支援計画書」の2つです。雇用条件書では労働時間や給与、福利厚生などの条件を明確に記載し、支援計画書では10項目の支援内容を具体的に説明する必要があります。
書類の不備は申請の遅延や不許可につながるため、記載漏れや誤記がないよう複数回のチェックを行うことをお勧めします。
申請後のフォローアップで注意すべきポイント
申請が許可されたあとも、継続的なフォローアップが重要です。適切な対応を怠ると、在留資格の取り消しにつながる可能性があります。
- 3ヶ月に1回の頻度で活動状況の報告が必要
- 雇用条件や支援内容に変更が生じた場合は、その都度届出を行う
特定技能1号の場合、3ヶ月に1回の頻度で活動状況の報告が必要です。報告内容には、就労状況や給与支払い状況、支援計画の実施状況などが含まれます。
また、雇用条件や支援内容に変更が生じた場合は、その都度届出を行う必要があります。特に注意すべきは、外国人が行方不明になったり、不法就労をしたりした場合の対応です。
そのような事態が発生した場合は、速やかに入国管理局への報告が求められます。これらの報告や届出を怠ると、将来的な特定技能外国人の受け入れが制限される可能性があるため、漏れのないよう管理することが重要です。
特定技能ビザ申請を成功させるためのまとめ
特定技能ビザ申請を成功させるには、正確な書類準備と計画的な対応が重要です。
雇用契約書や支援計画書、健康診断書などの必要書類を最新の要件に基づき正確に揃え、日本人と同等以上の労働条件を保証することが求められます。さらに、申請者が十分に理解できる言語で情報を提供し、法令遵守と受け入れ体制を整備することが成功の鍵です。不明点がある場合は、行政書士などの専門家に相談するのがおすすめです。
特定技能ビザの申請は複雑ですが、本記事で解説した内容を参考に、計画的に準備を進めることで、スムーズな申請が可能です。不明な点がある場合は、早めに専門家に相談することをお勧めします。