本記事では、特定技能制度の中でも「鉄道」分野に焦点を当て、その試験内容、業務区分、必要な技能や受け入れ体制について詳しく解説します。
特定技能『鉄道』は、労働力不足の深刻化を背景に、外国人労働者の受け入れ拡大を目的とした制度です。国土交通省や各関連機関が公表したデータをもとに、実際の現場に役立つ情報をまとめました。
ここからは、特定技能『鉄道』制度の概要、対象業務、試験内容、現状の受け入れ状況、受け入れ手続きについて段階的に解説していきます。初めてこの制度に触れる方にも、順序を追って理解していただける内容となっております。
この記事からわかること
この記事では、2024年度から特定技能制度の対象に追加された「鉄道」分野について、制度の概要から従事できる業務内容、試験の仕組み、受け入れ手続きの流れまでを網羅的に解説します。
「どの業務が対象なのか」「受け入れのために企業が準備すべきことは何か」など、制度を初めて検討する企業の担当者にもわかりやすく整理しています。鉄道業界における人材確保の新たな選択肢として、特定技能制度の活用を検討する際の参考にご活用ください。
特定技能『鉄道』とは
この節では、特定技能制度全体の仕組みと、鉄道分野における位置づけについて簡潔にまとめます。制度の基本的な概要と、その重要性について解説します。
特定技能制度は、外国人労働者が日本国内で働くための新たな在留資格制度です。鉄道分野は、この制度の新たな対象分野として2024年度から追加され、安全性と専門性が求められるインフラ分野において、外国人材の受け入れが本格的に始まりました。
各省庁の統計データによれば、多くの鉄道関連事業者が深刻な人材不足を報告しており、今後の拡充が期待されています。
関連記事：【2024年最新版】新たに4分野が追加！特定技能で就労可能な業種・職種を徹底解説
鉄道業界の人手不足の背景
鉄道業界では近年、高齢化の進行や若年層の採用難により、技術職を中心とした人材不足が深刻化しています。特に運行や保守・点検など現場での業務は専門性が高く、長年の経験を持つベテラン職員の退職が進む中で、若手の確保が追いついていない状況です。
また、地方の鉄道事業者では、慢性的な人手不足によりダイヤの見直しやサービス縮小を余儀なくされる事例もあり、業界全体として安定運営の継続が課題となっています。
こうした背景から、外国人材の受け入れを含む新たな人材確保策が求められ、その一つとして特定技能制度の導入が進められています。
特定技能制度の概要
特定技能制度は、2019年4月に創設された新しい外国人労働者受け入れ制度です。日本政府は、労働市場の需要に応じて、一定の技能や知識を持った外国人を円滑に受け入れるための仕組みとして設けました。
制度導入により、国内企業は効率的に人材不足を補うことができる点が大きな魅力です。
なぜこの制度が導入されたかというと、日本国内の労働人口は年々減少傾向にあり、特に専門的な技術や知識が必要な現場では、外国人労働者の活用が不可欠だからです。
実際、総務省統計局が公表した「労働力調査（基本集計）」によると、65歳以上の人口比率は年々増加する一方、15〜24歳の若年層の労働力人口は着実に減少しており、日本社会全体で人手不足の深刻化が進んでいることが明らかになっています。
具体的には、特定技能制度により、外国人労働者は一定の試験に合格すれば、日本国内で合法的に働くことができます。
例えば、食品製造や介護、建設、そして鉄道分野など、分野ごとに求められる技能基準が設けられています。鉄道の場合は、さらに安全管理や法令遵守が重要視されています。
以上から、特定技能制度は日本の労働市場において重要な役割を果たすとともに、各分野における専門性を維持しながら、労働力不足を補完するための有効な手段であると結論付けられます。
参照：総務省統計局｜労働力調査（基本集計）2022年（令和4年）平均結果の要約
鉄道分野における特定技能の重要性
鉄道は、日本の社会や経済を支える重要なインフラのひとつであり、その運行や保守には高度な専門性が求められます。中でも、安全運行や設備の点検・整備には、正確な判断力と熟練した技能が欠かせません。
国土交通省の公表資料によると、多くの鉄道事業者が安全管理の徹底や技術者の確保を重要な課題として挙げており、現場の技能継承や人材育成の必要性が年々高まっています。
こうした背景の中、外国人材の受け入れを可能にする特定技能制度は、即戦力となる人材の確保に向けた現実的な選択肢として注目されています。特に、保守・点検・運行補助などの技術職では慢性的な人手不足が続いており、求人倍率も高い水準で推移しています。
実際に、先進国の鉄道安全性の向上は、継続的な訓練と技術の標準化によって支えられているとされており、日本でも同様の取り組みが求められています。
そのため、鉄道分野における特定技能人材の受け入れは、単に人手を補うだけでなく、安全運行を維持し、長期的な技術継承を支える重要な仕組みとして、今後ますます期待が寄せられていくでしょう。
特定技能『鉄道』の現状と今後の展望
2024年3月に特定技能制度の対象分野として新たに追加された「鉄道」分野では、2025年2月時点での在留外国人数は1人にとどまっています。これは制度開始から間もないことや、試験制度の整備が進行中であることが影響しています。
しかし、今後の受け入れ見込み人数は増加が期待されています。政府は2024年度から2028年度までの5年間で、特定技能「鉄道」分野において最大3,800人の受け入れを見込んでいます。
これは、鉄道業界における人手不足の解消と、鉄道インフラの維持・発展を目的としたものです。
実際に、一部の鉄道事業者では、海外からの人材育成に向けた研修プログラムの導入が始まっており、特定技能評価試験の合格を目指す支援体制の整備も進められています。
今後、特定技能「鉄道」分野の受け入れ人数は増加が見込まれており、鉄道業界全体の人材確保と技術継承において、重要な役割を果たすことが期待されています。
参照：出入国在留管理庁｜【第１表】主な国籍・地域別 特定産業分野別 特定技能１号在留外国人数
特定技能『鉄道』の対象業務
ここでは、特定技能『鉄道』で認められている対象業務について、その分類や内容をわかりやすく解説します。鉄道分野では、安全確保を前提に、幅広い業務が対象となっており、受け入れにあたっては業務ごとの技能要件が定められています。
対象となる5つの業務区分
国土交通省の制度資料によると、特定技能「鉄道」分野では、以下の5つの業務区分が対象として定められています：
1. 軌道作業関連業務： レール交換、枕木整備、道床の補修など、軌道の維持・管理に関わる作業
2. 電気関連業務： 信号設備・電力設備など鉄道の安全運行を支える電気設備の点検・整備
3. 車両整備関連業務： 車両の定期点検、整備、故障対応などの整備業務
4. 車両製造関連業務： 鉄道車両や車両部品の製造・組立などの工程
5. 運輸関連業務： 駅務（駅の案内・改札等）や運転補助（車掌・運転士補助業務）など
各業務区分ごとに求められる知識や技術は異なり、試験内容も業務に応じて設定されます。例えば、軌道作業では現場での安全確認と正確な作業手順の理解が重視され、電気関連業務では高電圧機器の基礎知識や配線作業の実務経験が求められます。
このように区分が細分化されている理由は、それぞれの業務が高い専門性を持っており、従事するには分野ごとの実務スキルが不可欠だからです。
制度としても、受け入れ対象者が自分のスキルや経験に応じて適切な分野を選択できるよう整備されており、企業側も明確な要件に基づいて人材配置を進めることが可能になっています。
具体的な職種と仕事内容
特定技能「鉄道」分野では、5つの業務区分に基づき、実際に従事する職種も多岐にわたります。以下は、主な職種とその仕事内容の一例です。
- 運転士補助・車掌： 列車の運行に関わる補助業務。出発時の安全確認やドア操作、乗客対応などを行います。
- 駅係員： 駅構内での案内、改札業務、案内放送、清掃やバリアフリー対応など。鉄道利用者との接点が多い職種です。
- 車両整備士： 鉄道車両の定期点検や整備を担当。ブレーキや電気系統、足回りなどのチェック・修理を行います。
- 軌道保守作業員： 線路（軌道）のゆがみや摩耗をチェックし、部品交換や補修作業を行います。夜間作業も多く、安全管理が重要です。
- 電気設備技術者： 信号機や踏切、電力供給設備の保守・点検などを担当。鉄道の運行を支えるインフラ整備を担います。
- 鉄道車両製造工： 新造車両や部品の製造・組立工程に関与。製造工程ごとに必要な知識と正確な作業が求められます。
これらの職種では、各業務に応じた専門スキルが必要とされ、日常業務を通じて安全意識と判断力が常に求められます。
特に運行や整備に関わるポジションでは、一つの判断ミスが重大事故につながる可能性があるため、制度上も試験や研修で厳格に評価される仕組みとなっています。
また、受け入れ企業では、外国人材の語学サポートや現場指導体制の整備が進められており、スムーズな業務遂行に向けた環境づくりも重視されています。
特定技能では従事できない鉄道業務
特定技能「鉄道」分野では、制度上認められた業務範囲が定められており、それ以外の業務には従事できません。以下は、制度上従事が認められていない主な業務の例です。
- 運転士の単独運行業務： 特定技能の在留資格では、列車運転士としての本務乗務（単独乗務）は認められていません。
- 指令業務（運行管理）： 運行ダイヤやトラブル対応を担う指令員業務は対象外となっています。
- 高圧電気設備の操作責任者業務： 一部の電気関連業務でも、国家資格や高度な責任を要する範囲は従事不可です。
- 設計・企画・経営部門： 事務職や管理職、技術開発部門などは特定技能の対象外です。
これらの業務は、日本の法令や社内基準に基づき、高度な資格や長期経験を必要とするため、特定技能外国人の対象には含まれません。
したがって、受け入れを検討する企業は、対象となる業務区分を正しく把握し、適切な人材配置と教育計画を設計することが求められます。
特定技能『鉄道』の試験内容
特定技能「鉄道」分野で就労するには、所定の技能評価試験と日本語能力試験に合格する必要があります。試験は、実際に現場で求められるスキルや知識を問う内容で構成されており、即戦力としての適性が評価されます。
技能評価試験の概要
技能評価試験は、国土交通省の委託を受けた評価機関が実施します。鉄道分野では、以下の2つの形式で構成されます：
1. 筆記試験： 安全管理、基本的な運転・保守知識、関連法令や職場ルールに関する問題
2. 実技試験：点検・整備・作業手順の確認、現場での判断力や基礎作業の理解を評価する内容
試験の内容は、実際の現場で発生する業務を想定した実践的な形式となっており、単なる知識の暗記ではなく、「安全に作業できるか」「基本動作が理解できているか」が重視されます。
日本語能力の要件
特定技能制度では、外国人材に対して一定の日本語能力も求められます。鉄道分野においては、以下のいずれかを満たす必要があります：
- 日本語能力試験（JLPT）N4以上
- 国際交流基金日本語基礎テスト（JFT-Basic）合格
これは、現場での安全指示やコミュニケーションを正確に行うために必要とされるレベルであり、読み書きだけでなく、聞き取り・会話の基本も評価対象とされています。
試験の実施スケジュールと企業側の対応
特定技能「鉄道」分野の技能評価試験は、原則として日本国内で年に数回実施されます。今後のスケジュールは評価試験の実施機関および国土交通省・出入国在留管理庁の公式サイトにて随時発表されます。
企業としては、採用計画に合わせて試験時期を把握し、応募者の受験手続きや事前準備のサポートが求められます。特に、受験に必要な書類（在留資格関連、日本語能力証明など）や受験費用、交通手段の確認などを支援することで、スムーズな採用プロセスにつながります。
また、試験実施状況や受験人数は今後変動する可能性もあるため、最新の制度動向に注目しつつ、計画的な採用体制を構築することが重要です。
特定技能人材の受け入れ手続き
外国人材を特定技能「鉄道」分野で受け入れるためには、企業側でいくつかの条件を満たし、所定の手続きを踏む必要があります。ここでは、受け入れにあたって必要な準備や提出書類、制度上の注意点について解説します。
企業が満たすべき受け入れ要件
特定技能「鉄道」分野で外国人材を受け入れる企業には、いくつかの条件が求められます。
まず、受け入れ先としてふさわしい体制が整っていることが前提となり、具体的には十分な研修・教育体制があること、安全管理が徹底されていること、そして労働条件や福利厚生が法令に則って適切であることが重要です。
さらに、外国人材の生活支援を行う「登録支援機関」と連携しているか、または自社内で同等の支援体制を用意できることも要件とされています。特に鉄道業務では安全が最優先されるため、受け入れ企業には通常以上に整備された指導・管理体制が求められます。
手続きの流れと必要書類
受け入れまでの主な流れは以下のとおりです：
1. 評価試験および日本語試験に合格した候補者の選定
2. 雇用契約の締結
3. 在留資格認定証明書交付申請（出入国在留管理庁）
4. 必要書類の提出と審査
5. 在留資格認定後の受け入れ・就労開始
この手続きの中で企業が提出すべき書類には、候補者との雇用契約書（日本語および母国語）をはじめ、支援計画書や社内の受け入れ体制に関する資料、技能評価試験および日本語試験の合格証明書、企業概要や研修マニュアルなどが含まれます。
いずれの書類も、制度の趣旨に沿った適正な受け入れを証明するための重要な資料となるため、内容に不備がないよう丁寧に準備する必要があります。
法令遵守と注意点
特定技能人材を受け入れる際は、労働基準法や出入国管理法、鉄道業法といった関係法令を遵守することが絶対条件です。
特に鉄道分野は公共性が高く、安全管理が厳しく求められるため、法令違反が発覚した場合には、受け入れ停止や在留資格の取消といった厳しい措置が取られる可能性があります。
そのため、受け入れ前には社内体制の見直しを行い、就業規則や教育体制が適正であるかを確認することが重要です。また、登録支援機関や行政書士など、制度に詳しい外部の専門家と連携しながら、トラブルを未然に防ぐ体制づくりを進めることが推奨されます。
まとめ
本記事では、特定技能「鉄道」分野に関する制度の概要や対象業務、試験内容、受け入れ手続きまで、企業が知っておくべきポイントを解説しました。
鉄道業界では、専門性の高い技術職における人材不足が深刻化しており、特定技能制度を活用した外国人材の受け入れは、現場の安定運営や将来の技術継承において大きな可能性を秘めています。
制度の運用はまだ始まったばかりですが、今後さらに受け入れが進むことが見込まれており、企業としても早い段階から制度を正しく理解し、受け入れ体制の整備を進めておくことが重要です。
安全性と法令遵守を前提としながら、将来の人材確保に向けた第一歩として、特定技能「鉄道」分野の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
