建設業界の中でも「配管工事」は、水道・ガス・空調といった生活に欠かせないインフラを支える重要な仕事です。しかし現場では、深刻な人手不足が長年の課題となっています。こうした状況を解決する手段として注目されているのが、在留資格「特定技能」です。
この記事では、配管分野に特化した特定技能制度について、企業が押さえておくべきポイントを整理しました。制度の基本概要から具体的な業務範囲、試験の内容、採用フロー、そして受け入れ後のサポートまでを分かりやすく解説します。
読み終える頃には、御社が即戦力となる配管技術者をどのように採用・活用できるか、具体的なイメージが持てるはずです。
配管特定技能は、専門的なスキルを持つ外国人が日本の現場で「即戦力」として活躍できるよう設けられた制度です。
2023年の制度改正により、建設分野の業務区分は「土木」「建築」「ライフライン・設備」の3つに再編成され、配管は「ライフライン・設備」に含まれるようになりました。
これにより、従来の配管作業だけでなく、水道・ガス・電気通信といった関連設備工事にも携われるようになり、企業にとって人材活用の幅は大きく広がっています。
「制度が複雑で何から始めればいいかわからない」「採用後すぐに辞められてしまわないか心配」と感じている方も多いでしょう。
本記事では、技能実習からの移行手続きや採用にかかる費用・期間の目安など、経営者や人事担当者の疑問に寄り添いながら解説します。特定技能制度を正しく理解し、配管工事の人材不足を乗り越えるための第一歩を踏み出しましょう。
この記事でわかること
本記事では、配管分野の特定技能について、制度の基本的な仕組みから実際の仕事内容、そして在留資格を取得するための試験内容までを詳しく解説します。
さらに、技能実習から特定技能へ移行する場合と、海外から新規に採用する場合の流れの違い、企業が受け入れる際に満たすべき条件や必要な手続きについても整理しました。
加えて、採用後に外国人材が安心して働けるようにするためのサポート体制や、定着率を高めるための工夫、制度を導入することによるメリットと注意点にも触れています。
経営者や人事担当者の皆さまが「これさえ読めば配管特定技能の全体像がわかる」と思えるよう、採用計画に役立つ実践的な情報をまとめています。
配管特定技能とは?制度の背景と分野の位置づけ

配管特定技能とは、専門的なスキルを持つ外国人材が、日本の建設現場で即戦力として活躍できるように設けられた在留資格です。配管は生活インフラを支える重要な工事分野ですが、人材不足が深刻な課題となっています。
この制度を活用することで、企業は安定的に人材を確保し、現場力を維持・強化することが可能になります。
制度がつくられた背景
日本の建設業界は高齢化や若手不足により、深刻な人手不足が続いています。特に配管工事の現場では、生活に欠かせない水道・ガス・空調といったライフラインを担うにもかかわらず、担い手が減少しているのが実情です。
こうした状況に対応するため、2019年に導入されたのが「特定技能」制度です。この制度は、技能実習のように「技能を学んで帰国する」ことを目的とするのではなく、日本の現場で即戦力として働ける外国人材を受け入れることを目的としています。
配管特定技能の分野的な位置づけ
制度開始当初、建設分野の特定技能は19種類の業務に細かく分かれていました。しかし現場の実情に合わせ、2023年には「土木」「建築」「ライフライン・設備」の3つに再編されました。
配管はこの「ライフライン・設備」に属しており、水道やガス管の施工、空調配管、さらには電気通信設備まで、幅広いインフラ工事に携わることができます。
これにより、配管特定技能の人材は、単なる補助要員ではなく、現場を支える多能工としての役割を果たせるようになっています。
配管特定技能人材の活躍状況
法務省の統計(令和6年12月末時点)によると、建設分野の特定技能1号で働く外国人は38,365人にのぼります。そのうち「ライフライン・設備」区分に属するのは2,401人で、配管を中心としたインフラ設備の現場で活躍しています。
全体の割合としてはまだ少数ですが、近年は着実に増加傾向にあり、水道や空調、消火設備などの重要なインフラを担う存在として期待が高まっています。
このように配管特定技能は、人材不足を補うだけでなく、企業が長期的に安定した施工力を確保するための重要な制度といえます。特に即戦力としての役割を求められる現場において、外国人材の活躍はますます不可欠になってきています。
参照:出入国在留管理庁|特定産業分野・業務区分別 特定技能1号在留外国人数(令和6年12月末現在)
配管特定技能の対象業務

配管特定技能の人材は、建設現場で配管工事を中心とした幅広い業務に従事できます。ただし、すべての作業を任せられるわけではなく、制度上で認められている作業と認められていない作業があります。ここでは、できる業務とできない業務を整理して紹介します。
配管特定技能でできる業務
特定技能の在留資格を持つ外国人は、指導者の指示や監督のもとで、以下のような配管関連業務を行うことができます。
- 給排水設備工事:トイレ・洗面所・キッチンなど水回りの配管設置・修理
- 空調設備工事:エアコンや冷媒配管の設置・接続
- ガス設備工事:都市ガスやプロパンガス管の施工・点検
- 消火設備工事:スプリンクラーや消火配管の施工
- 関連業務:材料の搬入・運搬、作業準備や片付け、工具の整備など
また、2023年の制度改正で「ライフライン・設備」区分に統合されたことにより、電気通信やガス関連工事などの補助業務にも柔軟に対応できるようになっています。
配管特定技能ではできない業務
一方で、特定技能の範囲を超える高度で専門的な業務や、法律上資格が必要とされる作業については担当できません。例えば以下のような業務です。
- 設計業務:配管図面の設計や施工計画の立案など
- 監督業務:現場責任者や主任技術者としての管理業務
- 有資格者しかできない作業:ガス主任技術者や電気工事士などの国家資格が必須な業務
つまり、配管特定技能の人材は「専門的な作業者」として施工の中心を担うことはできますが、設計や現場全体の指揮をとる役割までは任せられません。あくまで企業の技術者や監督者の指示のもと、施工を担う即戦力として活躍するのが制度上の立ち位置です。
配管特定技能の試験内容

配管特定技能の在留資格を取得するには、候補者が一定の専門スキルと日本語力を持っていることを証明する必要があります。そのために行われるのが「技能試験」と「日本語試験」です。
また、すでに日本で技能実習を修了している人材であれば、一部の試験が免除されるケースもあります。ここでは、企業が採用を検討する際に知っておきたい3つのポイントを整理します。
技能試験:即戦力としての技量を証明
技能試験では、配管工事に必要な専門知識と実技力が評価されます。具体的には、図面を正しく読み取り、塩化ビニル管や鋼管を切断・接続して配管を組み立てる作業を、制限時間内に正確に仕上げられるかがチェックされます。
評価の基準は「仕上がりの精度」「作業手順の正確さ」「安全への配慮」の3点で、特に安全意識が重視されます。
この試験に合格している時点で、候補者は基本的な配管施工のスキルを備えていると判断できます。採用する企業にとっては、教育コストを抑えつつ、すぐに現場で活躍できる人材を確保できるという安心材料になります。
日本語試験:現場でのコミュニケーション力
もう一つの条件が日本語能力試験(JLPT)または国際交流基金日本語基礎テストへの合格です。特定技能1号では、最低限「日本語で基本的な会話や指示の理解ができること」が求められます。
配管の現場では、安全確認や作業指示の伝達が必須です。例えば「ここを締め直して」「工具を持ってきて」といった指示を正しく理解できなければ、事故や作業の遅れにつながります。
そのため日本語試験は単なる形式的な条件ではなく、現場で円滑に仕事を進めるために欠かせない基準となっています。
技能実習生からの移行ルート
すでに日本で技能実習2号を修了している外国人材であれば、特定技能への移行が可能です。この場合、技能試験や日本語試験が免除されるケースがあります。例えば、建築配管の技能実習を修了した人材であれば、配管特定技能(ライフライン・設備区分)に試験なしで移行できます。
このルートを活用すれば、すでに日本の生活や職場環境に慣れている人材をスムーズに採用できるため、企業にとって大きなメリットです。
実際、建設分野の特定技能人材は技能実習から移行してくるケースが多く、現場に定着しやすいルートとして広く利用されています。そのため、企業にとっても最も現実的で安定した採用方法のひとつといえるでしょう。
関連記事:技能実習から特定技能へ切り替えるには?それぞれの違いやメリット・デメリットを解説
配管特定技能の採用フロー
配管特定技能の人材を採用する方法は、大きく分けて「海外から新規に呼び寄せる場合」と「国内で技能実習を修了した人材を移行採用する場合」の2つがあります。
どちらの方法でも、企業側には受け入れ要件や手続きがあり、採用までに必要な期間やコストも異なります。ここでは、それぞれの流れを整理して解説します。
海外から新規に採用する場合
海外から直接人材を呼び寄せる場合は、日本側と現地側の両方で手続きを進める必要があります。まず、企業は送り出し機関や人材紹介会社を通じて候補者を探し、オンライン面接などを行って雇用契約を結びます。
その後、受け入れ企業は外国人材への「支援計画」を作成し、出入国在留管理庁に対して在留資格認定証明書(COE)の交付申請を行います。
審査には通常1〜3か月程度かかり、COEが交付されたら候補者本人が現地の日本大使館・領事館で査証を申請します。査証が発行されれば来日が可能となり、空港での出迎えや住居の手配、役所での手続きを経て就業開始となります。
全体として、採用開始から就労まで4〜6か月程度を見込むのが一般的です。
国内の技能実習生から移行する場合
すでに日本に滞在している技能実習2号修了者を採用する場合は、海外採用に比べて手続きがシンプルで、短期間で就労を開始できます。
具体的には、企業と本人が雇用契約を結んだうえで、出入国在留管理庁に在留資格変更許可申請を行います。必要書類には、雇用契約書や給与の説明資料、技能実習を修了したことを示す証明書などが含まれます。
申請から許可が下りるまでの期間は1〜2か月程度が目安であり、早ければ契約から数か月で配管特定技能として就業開始できます。
すでに日本の生活や職場ルールに慣れているため、定着率が高いのも大きなメリットです。企業にとっては、最も現実的で安定した採用ルートといえるでしょう。
配管特定技能を受け入れる企業の要件
配管特定技能の人材を採用するには、企業側が「特定技能所属機関」としての基準を満たしている必要があります。これは、外国人材が安心して働き、生活できる環境を整えるために定められている条件です。
単に労働力を確保するだけでなく、適切な雇用管理と支援を行う姿勢が求められます。
法令遵守と労働条件の確保
まず大前提として、労働基準法や社会保険関連の法令を遵守していることが必須です。過去に重大な違反がある企業や、技能実習制度で不正があった企業は受け入れできません。
また、外国人材への待遇は日本人と同等以上でなければならず、不当に低い賃金や差別的な条件は認められません。これは制度の信頼性を保つための重要なルールです。
建設業ならではの要件
配管を含む建設分野で外国人材を受け入れる場合、通常の法令遵守に加えて特有の条件があります。具体的には、建設業の許可を取得していること、そして建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録が必要です。
CCUSは技能や経験を客観的に記録する仕組みで、外国人材のキャリア形成を支援するうえでも重要な役割を果たします。
支援体制の整備
さらに、企業は採用した外国人材が日本で安心して生活できるよう「支援計画」を用意する義務があります。内容は、住居の確保や行政手続きのサポート、日本語学習機会の提供、生活相談への対応など幅広く、法律で定められた10項目の支援が必要です。
これらは自社で行うことも、専門の「登録支援機関」に委託することも可能です。
まとめると、受け入れ企業には「法令を守る姿勢」「建設業特有の登録」「支援体制の確保」という3つの柱が求められます。これらを整えることで、特定技能人材を安心して採用・定着させることができるのです。
配管特定技能の採用にかかる費用と期間
配管特定技能の採用にかかるコストや期間は、「海外から新規に採用する場合」と「国内で技能実習生を移行させる場合」で大きく異なります。
費用の目安
海外から採用する場合は、渡航費や人材紹介会社への手数料、在留資格認定の申請費用などが発生し、全体で数十万円〜100万円程度かかるのが一般的です。
一方、国内の技能実習生からの移行では、渡航費や紹介料が不要な分、比較的低コストで済みます。ただしどちらのケースでも、生活支援を登録支援機関に委託する場合は月額費用が継続的に発生します。
期間の目安
新規で海外から採用する場合は、候補者探しから就業開始まで4〜6か月程度かかります。対して、国内の技能実習生を移行する場合は、在留資格変更の審査を経て1〜2か月程度で現場に入れるケースが多いです。
まとめると、採用コストやスピードを重視するなら「国内移行」、長期的な人材確保を視野に入れるなら「海外採用」と考えるのが現実的です。自社のニーズに合わせて最適なルートを選ぶことが重要です。
まとめ
本記事では、配管特定技能について制度の背景、対象業務、試験内容、採用フロー、受け入れ企業の要件、費用や期間の目安まで解説しました。人手不足が深刻化する建設業界において、配管特定技能は即戦力となる人材を確保するための有力な手段です。
海外からの新規採用には時間とコストがかかりますが、長期的な人材確保に有効です。一方、国内の技能実習生からの移行は短期間で採用でき、定着率も高いルートです。自社の状況に応じて最適な方法を選ぶことが、採用成功のカギとなります。
制度をうまく活用するためには、法令遵守や適切な支援体制の整備が欠かせません。単なる労働力としてではなく、会社の未来を共に担うパートナーとして迎え入れる姿勢を持つことが、優秀な人材を定着させる一番のポイントです。
配管特定技能制度を理解し、計画的に取り入れることで、人材不足という大きな課題を乗り越え、企業の成長につなげていきましょう。