建設業界では深刻な人手不足が続いており、その解消策として「特定技能」制度が注目を集めています。特に鉄筋施工の分野では、若手職人の確保が難しい中、即戦力となる外国人材の活用が進んでいます。
本記事では、鉄筋施工における特定技能制度の概要や仕事内容、試験の詳細、技能実習からの移行方法、そして採用後の定着支援までを徹底解説。外国人材の採用を検討している企業の担当者様にとって、現場で役立つ実践的な情報をお届けします。
この記事でわかること
この記事では、鉄筋施工分野における特定技能制度の概要や、外国人材が現場で担う仕事内容、必要な試験の内容と対策方法について解説します。
さらに、技能実習からの移行手続きや、採用後のサポート体制、外国人材の定着に向けたポイントまで、企業担当者が押さえておくべき情報を総合的に紹介します。
鉄筋施工の特定技能とは

鉄筋施工は、建物の骨組みを形成する重要な工程であり、建設分野の中でも高い専門性が求められる職種です。しかし、国内の若手人材の減少と熟練技能者の高齢化により、深刻な人手不足が課題となっています。
こうした背景から、政府は2019年に「特定技能」制度を創設し、外国人材の受け入れを拡大しました。鉄筋施工職種は建設分野に分類され、「特定技能1号」の対象職種として位置づけられています。
本セクションでは、鉄筋施工の特定技能制度の概要と特徴を紹介し、制度導入の背景や受け入れ時の要件について解説します。
特定技能制度の概要
特定技能制度は、日本国内の深刻な人手不足に対応するため、2019年に創設された新たな在留資格制度です。14の特定産業分野が対象となっており、建設分野もそのひとつです。
「特定技能1号」は、一定の技能と日本語能力を有する外国人が対象で、最長5年間の在留が可能です。家族の帯同はできませんが、現場で即戦力として働くことができる制度です。
鉄筋施工が追加された背景とは
鉄筋施工は建物の構造を支える重要な職種であり、建設業の中でも特に専門性が高い分野です。しかし、少子高齢化により国内の若年層が減少し、熟練技能者の引退も重なって、慢性的な人手不足が深刻化しています。
国土交通省の報告では、鉄筋施工などの型枠工やとび職といった構造関連の技能職において、今後も人材不足が続くと予測されています。こうした背景から、鉄筋施工職種も特定技能制度の対象として追加され、外国人材の活用が期待されています。
実際に、2024年12月末時点で建設分野の特定技能1号在留者は38,365人にのぼっており、鉄筋継手を含む多くの建設現場で即戦力として活躍しています。
参照:出入国在留管理庁【第1表】主な国籍・地域別 特定産業分野別 特定技能1号在留外国人数 (2024年12月末)
建設分野における特定技能の特徴
建設分野において特定技能外国人を受け入れるには、他分野と比べて厳格な制度が設けられています。
たとえば、受入企業は国土交通省への受入れ計画の提出が必要であり、一般社団法人建設技能人材機構(JAC)への加入が義務付けられています。
また、技能評価や処遇の透明性を確保するため、建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録も必要です。これにより、外国人技能者のスキルや経験が正当に評価され、安全かつ安定した就労環境の整備が進められています。
「鉄筋施工」特定技能の仕事内容

特定技能制度により、日本の建設現場で働く外国人労働者が担う鉄筋施工の業務は多岐にわたります。このセクションでは、主な作業内容や求められるスキル、安全管理のポイントなど、実際の現場での仕事内容を詳しく紹介します。
基本的な作業内容
鉄筋施工の主な作業は、鉄筋の「加工」と「組立て」です。図面を基に鉄筋を切断・曲げ加工し、正確に配置・結束することで、建築構造物の骨組みを形成します。これらの作業は建物の耐久性や耐震性に直結するため、非常に重要な役割を担います。
加えて、鉄筋の運搬や現場への配置、補助作業としての清掃や後片付けなども日常的に行われます。現場では時間と正確性が重視されるため、集中力と体力も求められます。
特定技能外国人が担当できる業務範囲
特定技能外国人は、鉄筋施工に関する基本的な作業に従事できます。具体的には、以下のような作業が含まれます。
- 鉄筋の切断・曲げ・加工
- 図面を基にした鉄筋の組立て
- 資材の運搬や配置
- 簡単な道具・機械の使用
- 現場内の安全確認や清掃業務
これらの業務は、現場監督や先輩技術者の指導のもとで行われ、安全や品質の確保が図られます。
担当できない業務
一方で、特定技能外国人が担当できない、または制限のある業務も存在します。代表的なものは以下のとおりです。
- 施工計画の立案や管理業務
- 現場責任者・監督者としての業務
- 建築構造に関する専門的判断を要する作業
- 資格が必要な高所作業車や重機の操作
これらの業務は、一定の資格や実務経験が必要とされるため、特定技能の対象外となっています。企業側は、作業内容の線引きを明確にし、適切な業務配分を行うことが重要です。
安全管理とチームでの作業
建設現場では安全が最優先です。特定技能外国人も、安全装備の着用やルールの遵守が求められます。特に、鉄筋は重量物であるため、誤った取り扱いは重大な事故につながります。
また、鉄筋施工は複数人で連携して作業を進めるため、最低限の日本語能力や身振り手振りによるコミュニケーション能力が重要になります。現場ごとのルールを理解し、チームの一員として動けることが成功の鍵です。
「鉄筋施工」特定技能試験の詳細

外国人材が鉄筋施工の特定技能1号として就労するには、技能試験および日本語試験に合格する必要があります。本セクションでは、それぞれの試験内容やレベル感、企業担当者として知っておくべきポイントを詳しく解説します。
鉄筋施工に関する技能評価試験
技能試験は、鉄筋施工に必要な基本技術と作業手順の理解を評価するもので、筆記と実技に分かれています。主な出題範囲は以下の通りです:
- 図面の読み取りと理解
- 鉄筋の加工・曲げ・結束などの基本作業
- 工具の名称と使い方、安全な作業手順
実技では、図面をもとに鉄筋を組み立てる課題などがあり、手順通りに正確に作業ができるかがポイントです。試験は日本国内外で年数回実施され、合格者は即戦力としての技能があると認定されます。
日本語能力評価試験
鉄筋施工分野に従事するには、日本語での最低限のコミュニケーション能力も重要です。これを評価するために、日本語試験(国際交流基金日本語基礎テストもしくは日本語能力試験N4以上)の合格が求められます。
とくにN4レベルは、「日常生活に支障がない程度の日本語理解」が目安とされ、簡単な指示や安全ルールを理解できるレベルです。現場では口頭指示に従えることが必須なため、語学力も重要な評価基準となります。
試験合格後の即戦力性
特定技能試験に合格した外国人材は、基本的な鉄筋施工の技能と日本語での意思疎通が可能と判断されており、現場で即戦力として働ける水準にあります。
とはいえ、配属当初は作業手順や企業独自のルールに慣れるまで一定の指導が必要です。そのため、企業側は初期教育とサポート体制を整え、外国人材がスムーズに業務に適応できるよう支援することが求められます。
技能実習から特定技能への移行手続き
鉄筋施工分野においては、技能実習2号を良好に修了した外国人材が、試験を免除して特定技能1号へ移行できる制度があります。
このルートは企業側にとっても即戦力をスムーズに確保できる方法として注目されています。以下では、移行までの流れと必要書類について解説します。
関連記事:【技能実習から特定技能へ切り替えるには?それぞれの違いやメリット・デメリットを解説
技能実習2号修了者の特例
鉄筋施工の技能実習2号を「良好に修了」した場合、特定技能1号への移行時に技能試験と日本語試験が免除されます。この「良好な修了」とは、技能実習計画に基づく技能評価試験に合格し、適切な態度で実習を終えたことを指します。
このルートでは、すでに日本での就労経験があるため、現場適応が早く、企業にとってもリスクの少ない採用が可能となります。
移行手続きの流れ
技能実習から特定技能への移行には、以下のようなステップを踏む必要があります:
- 技能実習2号の修了証明を取得
- 雇用予定の企業による建設特定技能受入計画の申請・認定
- 特定技能1号への在留資格変更申請(本人)
- 建設キャリアアップシステム(CCUS)登録
- 一般社団法人 建設技能人材機構(JAC)への加入
とくに受入計画とJAC加入は建設分野ならではの要件であり、通常の特定技能分野よりも手続きが多くなっています。
必要書類と注意点
主な提出書類には以下のものがあります:
- 技能実習修了証明書(原本)
- 在留資格変更許可申請書
- 雇用契約書(日本人と同等以上の待遇を証明するもの)
- 受入計画認定通知書
- CCUS登録証明書
企業は書類の不備がないように準備を進め、本人の在留期限にも留意する必要があります。専門家(行政書士など)に相談することでスムーズな移行が可能になります。
外国人材の採用における注意点と成功のポイント
鉄筋施工における外国人特定技能者の受け入れは、単に人手不足を補うだけでなく、職場に多様性をもたらす重要な取り組みです。円滑な雇用と現場での定着を実現するためには、制度への理解に加え、現場での丁寧なサポートが欠かせません。
日本人と同等以上の待遇が必要
特定技能外国人を雇用する場合、賃金や労働条件は日本人と同等以上でなければなりません。これは制度上の義務であり、給与の未払い・サービス残業などがあると在留資格の取消しにもつながります。
労働条件通知書や契約内容を明確にし、トラブル防止に努めましょう。
生活面の支援体制を整える
外国人材が安心して働くには、就労環境だけでなく生活面での支援も重要です。住居の確保、公共交通の案内、日本語学習支援、行政手続きのサポートなど、働く以外の不安を取り除くことが、定着率の向上につながります。
コミュニケーションと教育体制の工夫
鉄筋施工はチームワークが重要な職種です。基本的な日本語力を補う指さし、図解、現場用語リストなどの工夫が必要です。また、外国人材に対しても理解しやすいよう、マニュアルの多言語化やOJTの丁寧な実施を心がけましょう。
信頼できる登録支援機関の活用
自社で生活支援体制を整えるのが難しい場合は、登録支援機関の活用も効果的です。生活オリエンテーションや定期的な面談などを通じて、外国人材の不安を早期に把握・解消することができます。信頼できる支援機関を選定し、連携を強化しましょう。
まとめ
鉄筋施工における特定技能制度は、建設業界の深刻な人手不足を補う有効な手段として注目されています。
制度の仕組みや試験内容、技能実習からの移行手続き、採用後のサポート体制までをしっかり理解し、準備することで、外国人材を即戦力として受け入れることが可能になります。
特定技能の外国人材は、適切な支援とコミュニケーション環境が整っていれば、日本人と同様に現場で高いパフォーマンスを発揮できます。制度活用のメリットを最大化するためにも、制度理解と現場環境の整備の両輪で、戦力としての定着を目指していきましょう。