プリント配線板製造業界では、技術革新が進む一方で、深刻な人手不足が続いています。こうした課題に対応する有効な手段として、特定技能制度を活用した外国人労働者の受け入れが注目されています。
本記事では、特定技能「プリント配線板製造」の対象業務、試験内容、受け入れ条件、採用方法、現場での課題と解決策まで、最新情報をわかりやすく整理しました。
人事担当者や経営者の皆様が抱える疑問を解消し、スムーズな採用・現場活用につなげるための実践的なヒントを提供します。
この記事でわかること
プリント配線板（PCB）は、スマートフォンや家電、自動車、産業機器など、あらゆる電子機器に不可欠な基盤部品です。技術革新に伴い需要が年々高まる一方で、現場の高齢化や若年層の不足が進み、人手不足は深刻化しています。
この課題に対し、2019年に創設された特定技能制度が活用されています。特定技能「プリント配線板製造」によって、技能試験と日本語試験に合格した外国人材を即戦力として受け入れ、企業の生産力強化や技術継承を実現できます。
特定技能「プリント配線板製造」とは
特定技能「プリント配線板製造」は、電子機器の心臓部ともいえるプリント配線板の製造現場で働く外国人労働者向けの在留資格です。この資格により、一定の技能と日本語能力を持つ外国人材を、即戦力として受け入れることが可能となります。
「プリント配線板製造」はどんな業務か？
プリント配線板製造業は、パソコン、スマートフォン、自動車、医療機器など、さまざまな分野で使用される基盤部品を製造する重要な産業です。
具体的な業務には、基板設計、部品の実装、はんだ付け、製品検査、品質管理などが含まれ、高精度な技術力と熟練した作業が求められます。
業界の現状と人手不足の課題
近年、電子機器の普及と高度化によりプリント配線板の需要は急増しています。しかし、国内の製造現場では高齢化と若手人材の不足が進み、慢性的な人手不足に悩まされています。
さらに、複雑化・高度化する製造技術に対応できる人材育成が間に合わないという課題もあります。
こうした状況を受け、即戦力となる外国人労働者を特定技能制度で受け入れる動きが加速しています。
特定技能「プリント配線板製造」について
特定技能「プリント配線板製造」は、特定技能1号の「工業製品製造業分野」に分類される職種です。
出入国在留管理庁の2024年12月時点の統計によると、特定技能1号「工業製品製造業分野」での在留外国人数は45,183人に上り、製造業分野は特定技能制度の中でも主要な受け入れ分野となっています。
プリント配線板製造業はその中でも中核を担い、企業はこの制度を活用することで即戦力人材を確保し、技術の継承や生産ラインの安定化を図ることが可能です。採用活動を行う際には、制度の要件や条件を正確に理解し、適切な体制整備を進めることが重要です。
参照：出入国在留管理庁｜特定技能在留外国人数 (令和６年12月末現在)
特定技能「プリント配線板製造」の対象業務
特定技能「プリント配線板製造」の在留資格で外国人労働者が従事できる業務は、法律で明確に定められています。対象業務を正確に理解し、誤った配属や違反行為が発生しないよう注意が必要です。
特定技能で従事できる業務
- 基板の設計補助：回路図作成やレイアウト設計のサポート。
- 基板加工・実装：プリント配線板の基材加工、部品実装、はんだ付け作業。
- 検査・品質管理：完成品の外観検査、電気検査、性能確認などの品質チェック。
- 組立・修理：基板組立、修理作業、改修対応。
これらの業務は、専門知識と高い正確性が求められるため、技能試験の合格者や実務経験者が対象となります。
特定技能では従事できない業務
- 製品開発・設計職：新規製品の開発設計、回路設計、製品企画。
- 管理・監督職：製造ラインのマネジメントや労務管理、品質保証責任者など。
- 営業・事務職：取引先対応、契約管理、事務作業。
- 他分野の製造業務：プリント配線板以外の製品（例えば電子部品製造、金属加工など）の業務。
対象外業務に従事させると、在留資格違反となり企業側に罰則が科される可能性があります。事前に業務範囲を確認し、正しく配属を行いましょう。
特定技能試験の内容と日本語能力
特定技能「プリント配線板製造」の在留資格を取得するには、技能評価試験と日本語能力試験の両方に合格する必要があります。ここでは、それぞれの試験内容と求められるレベルを解説します。
技能評価試験の内容とポイント
技能評価試験は、プリント配線板製造の専門知識や実務スキルを確認するために実施されます。試験範囲には、基板加工、部品実装、はんだ付け、検査、品質管理などが含まれます。
筆記試験と実技試験の両方があり、基礎知識だけでなく、現場で役立つ実践力が求められます。受験者は公式テキストや過去問題を活用し、しっかりと準備を進めることが重要です。
日本語能力の要件と試験
日本語能力試験は、日常会話や職場でのコミュニケーションに必要な日本語力を評価する試験です。主に以下のいずれかに合格する必要があります。
- 日本語能力試験（JLPT）N4以上：簡単な文章の読解や日常的な会話ができるレベル。
- JFT-Basic（国際交流基金日本語基礎テスト）：特定技能用に設計された基礎的な日本語能力評価。
職場では、安全確認や業務指示の理解が不可欠です。そのため、外国人労働者の日本語スキルは企業側にとっても重要なチェックポイントとなります。
業務で求められる日本語力の具体例
業務現場では、以下のような日本語力が求められます。
- 作業指示の理解（例：検査工程の変更点、工程順序の確認）
- 安全指示の理解（例：「危険区域に入らないでください」「防護具を着用してください」）
- 簡単な報告・相談（例：「機械の動作が不安定です」「部品に傷があります」）
企業側は、指示をわかりやすく伝える工夫や、OJTを通じた実践的な日本語指導を行うことで、労働者のスムーズな現場適応を支援できます。
外国人労働者の受け入れ条件と手続き
特定技能「プリント配線板製造」の外国人労働者を受け入れるためには、企業側と労働者側の双方が定められた条件を満たし、必要な手続きを適切に行う必要があります。
このセクションでは、企業の受け入れ要件、在留資格取得の流れ、そして遵守すべき法令や注意点について詳しく解説します。
企業側の受け入れ要件
受け入れ企業は、労働基準法や最低賃金法をはじめとする関連法令を遵守し、外国人労働者と適正な雇用契約を結ぶ必要があります。また、外国人が安心して働けるよう、生活支援や労働支援の体制を整えることが求められます。
この支援は、登録支援機関を活用することで負担を軽減できます。さらに、出入国在留管理庁のガイドラインに基づき、定期的な報告義務や指導責任を果たさなければなりません。
在留資格取得までの手続き
在留資格取得の手続きは段階を踏んで行われます。まず、外国人労働者は技能評価試験と日本語試験に合格する必要があります。その後、企業が労働者と雇用契約を締結し、在留資格認定証明書の交付申請を行います。
審査が完了すると、労働者はビザを取得して入国し、正式に雇用が開始されます。この一連の流れには通常数か月を要するため、スケジュール管理と準備が重要です。
遵守すべき法令と注意点
外国人労働者を受け入れる企業は、労働基準法、入管法、特定技能関連省令などの法令を厳守する必要があります。違反が発覚すれば、罰則が科されるだけでなく、受け入れ停止措置が取られるリスクもあります。
厚生労働省の2022年調査によれば、外国人労働者を雇用する企業の中には法令遵守に課題を抱えている例が報告されています。こうした問題を回避するためにも、専門家や登録支援機関の助言を受け、社内体制を万全に整備することが重要です。
特定技能人材の採用方法とプロセス
特定技能「プリント配線板製造」の人材を採用する際には、適切な採用チャネルの選択や、選考・面接の実施、入社後のフォローアップまでを一貫して計画することが重要です。ここでは、それぞれの段階におけるポイントを順を追って解説します。
関連記事：【2025年最新版】外国人を採用する際の手続き・ポイントを解説！
採用チャネルと募集の進め方
特定技能人材の採用には、国内外の人材紹介会社の活用、海外の教育機関や研修機関との提携、登録支援機関を通じた紹介、求人サイトや自社採用ページの活用など、さまざまなチャネルがあります。
現地での採用説明会やオンライン採用イベントを実施することで、候補者に企業の魅力を直接伝え、信頼関係を構築することも効果的です。
選考・面接時の重要ポイント
選考では、単に技術スキルだけでなく、日本で働く意欲や適応力、学習意欲も評価する必要があります。面接では、業務内容や就労条件を具体的に説明し、候補者の理解を確認しましょう。
また、応募者の母国語や英語での対応を用意することで、意思疎通のミスを防ぐことができます。こうした丁寧な対応が、採用後の定着率を高めるポイントとなります。
入社後の教育と定着支援
入社後は、日本の職場文化や作業手順、安全衛生管理などを学ぶ研修を実施しましょう。さらに、技術指導だけでなく、生活支援やメンター制度を導入することで、労働者が安心して働ける環境を整えることが重要です。
近年では、こうした定着支援を行うことで、働きやすさや生産性の向上につながると期待されています。企業全体で支援体制を整えることが、成功の鍵となります。
外国人労働者との共生と職場環境の整備
外国人労働者を受け入れる際、文化や言語の違いによる課題を理解し、職場全体で共生の意識を持つことが重要です。多様性を尊重し、働きやすい環境を整えることで、チーム全体の士気と生産性が向上します。
文化・言語の違いへの対応
異文化理解のための社内研修を行い、全従業員が外国人労働者と円滑に関わるための知識を深めましょう。たとえば、母国の文化・宗教・生活習慣を知ることで、誤解や無意識の偏見を減らす効果が期待されます。
また、多言語マニュアルや図解資料を用意することで、作業指示の誤解を減らし、業務効率を向上させることが可能です。
円滑なコミュニケーションのための工夫
通訳の配置や翻訳アプリの活用、定期的なミーティングを通じて、現場内の意思疎通を円滑にします。特に、業務上の報連相（報告・連絡・相談）が滞ると重大なトラブルの原因になりかねないため、小さな困りごとや意見を気軽に共有できる仕組みを整えることが重要です。
さらに、簡単な日本語講座や現場用語の勉強会を実施することで、外国人側の不安解消にもつながります。
企業によるベストプラクティスの導入
他社の成功事例を参考に、自社に合った共生の取り組みを模索するのも有効です。例えば、多文化交流イベントの開催、社内掲示板での多言語情報共有、社内アンケートで課題を拾い上げるといった工夫が挙げられます。
また、外国人労働者が安心して働けるように、相談窓口やメンター制度を設けることもおすすめです。こうした取り組みを積極的に進めることで、職場の一体感と定着率の向上が期待できます。
まとめ
特定技能「プリント配線板製造」の制度は、慢性的な人手不足に悩む業界にとって重要な解決策の一つです。制度の活用により、即戦力となる外国人労働者を受け入れ、生産性向上や技術継承の促進が期待できます。
しかし、受け入れにあたっては、技能試験や日本語試験の理解、企業側の受け入れ体制、法令遵守、現場のコミュニケーションや定着支援といった多くのポイントを押さえる必要があります。
しっかりと準備を整え、外国人労働者とともに成長できる環境を整えることが、企業にとっての成功の鍵です。
本記事が、特定技能「プリント配線板製造」の受け入れを検討されている人事担当者や経営者の皆様にとって、実践的なガイドとなれば幸いです。最新情報を確認し、具体的な課題解決にぜひお役立てください。
