近年、農業分野での外国人労働者が増えてきています。技能実習生をはじめ、特定技能「農業」が注目され、雇用を検討する企業も増えてきているでしょう。
本記事では、特定技能「農業」について、技能実習と比較しつつ、概要から受け入れ要件を解説。記事後半では、実際の受け入れ事例も紹介しますので、農業分野で外国人の雇用を検討する方は、スムーズに採用が進められるよう理解を深めるきっかけとしてみてください。
特定技能「農業」の概要
農業分野の特定技能は、深刻化する人手不足に対応するために創設された制度です。農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の4分野においては、農林水産省が所管しています。出入国在留管理庁によると、2022年12月時点で農業分野に従事している外国人は20,882人で、特定技能の16分野の中で4番目に多い人数となっています。
農業分野の在留資格は、母国で関連のある業務経験や学歴が問われないため、取得しやすいのも特徴の一つです。また、農業分野ではこれまで、技能実習生が多く活躍してきているため、一時的に活躍してもらうことはできましたが、母国へ帰らなくてはならないため長期で雇用できる人材の不足が課題とされています。
特定技能「農業」で適用となる業務
農業分野の特定技能で適用となる業務は、「耕種農業全般」と「畜産農業全般」に区別されます。耕種農業は、田畑での作物の栽培を中心とする農業です。施設園芸、畑作・野菜作り、果樹栽培などが含まれ、特に栽培管理業務が必須とされています。畜産農業は、家畜の飼育を通じて肉、卵、乳製品などを生産する分野です。家畜の健康管理や飼育環境の管理などの飼養管理業務が該当します。
技能実習と比べると、業務範囲を広くカバーしており、外国人労働者がこれらの業務に従事することを可能にしています。
派遣で受け入れる場合の条件
農業分野は、派遣形態での雇用が可能です。「特定技能外国人を派遣できる資格を持った事業者であること」および、「農業と漁業分野に関連する事業者であること」を満たした上で、農業分野で派遣元の事業者となる要件は以下のいずれかを満たしていなければなりません。
- ① 農業又は農業関連業務を行っている事業者
- ② ①又は地方公共団体が資本金の過半数を出資している事業者
- ③ ①又は地方公共団体が業務執行に実質的に関与していると認められる事業者 (①の役職員又は地方公共団体の職員が役員となっている等)
- ④ 国家戦略特別区域法第 16 条の5第1項に規定する特定機関(国家戦略特区で農業支援外国人受入事業を実施している事業者)
引用:農林水産省 外国人材受入総合支援事業特定技能制度の農業分野 「特定技能」農業分野に関するQ&A
また、派遣先の事業者は以下の条件を満たしている必要があります。
- 労働や社会保険、租税に関する法令を遵守していること
- 過去1年以内に特定技能外国人と同様の業務にあたる労働者を解雇していないこと
- 過去1年以内に派遣先の責任により行方不明者が出ていない
- 欠格事由に該当しないこと
参照:出入国在留管理庁 特定技能外国人受入れに関する運用要領
上記条件は、受け入れている期間中においても遵守している必要があります。派遣先の事業者が条件を満たさなかった場合には、外国人労働者の不法就労に加担・助長したという罰則「不法就労助長罪」に問われるリスクがあります。
特定技能「農業」の取得要件
技能実習2号からの移行
技能実習2号を取得していれば、技能実習1号「農業」へ移行できます。移行するための条件は、移行する特定技能と同じ職種であることが条件となります。技能実習2号を良好に取得している場合は、日本語試験と農業技能測定試験が免除されます。
技能試験と日本語試験に合格
日本語能力試験では、国際交流基金日本語基礎テスト(合格レベル)か日本語能力試験N4レベル以上に合格する必要があります。
N4レベルの日本語能力試験では、業務遂行のために必要な日常会話レベルの日本語力が求められます。基本的な語彙や漢字を使って書かれた身近な文章を読んで理解できること、ゆっくりと話される会話であれば内容がほぼ理解できることが含まれます。
農業技能測定試験について
技能試験は、農業技能測定試験(耕種農業全般/畜産農業全般)があり、受験者は農業分野の基本的な知識と技術を持っていることを証明する必要があります。
受験資格は、試験日において満17歳以上であることが求められます。在留資格があれば受験可能であり、短期滞在ビザを持っている方も受験が可能ですが、在留資格を有していない方は受験できません。
特定技能「農業」を受け入れる要件
特定技能「農業」を満たす外国人を受け入れる際の要件は複数あります。まず、企業は特定技能外国人との雇用契約を安定して継続できる財政的基盤を有している必要があります。
そして、特定技能雇用契約は、労働基準法その他の労働に関する法令の規定に適合していなければなりません。
また、特定技能「農業分野」の受け入れ企業は、初めての1号特定技能外国人を受け入れる場合、特定技能外国人の入国後4ヶ月以内に農林水産省が組織する協議会「農業特定技能協議会」に参加し、必要な協力を行う必要があります。
受け入れ可能な人数と期間は以下の通りです。
- 受け入れ可能な人数: 事業所単位で受け入れ可能な人数に制限なし
- 受け入れ可能な期間:「1号特定技能」として通算5年間の在留が可能
複数の条件があるため、事前に余裕をもって準備を進めましょう。
特定技能「農業」を受け入れるメリット
特定技能「農業」を受け入れるメリットを紹介します。メリットを把握し、事業の成長に必要不可欠な人材を自社に迎え入れましょう。
受け入れ上限人数がない
農業分野において、特定技能外国人の受け入れに事業所単位での上限が設けられていません。事業所は、自身の財務状況や受け入れ能力に応じて、必要な数の特定技能外国人を雇用できるのです。柔軟に人材を雇用でき、農業経営にとってメリットとなるでしょう。
技能実習によりも柔軟に業務を任せられる
技能実習と比較して、特定技能「農業」はより幅広い業務に従事でき、農業分野における多様なニーズに対応できます。また、留学生や日本の滞在歴が長い外国人も多く、全体的に日本語能力も高く、技能実習生の管理や橋渡し役としても活躍してもらえるでしょう。
農業分野における特定技能外国人の受け入れ事例
農業分野における特定技能外国人の受け入れ事例について、耕種および畜産に区分していくつか紹介します。
耕種
株式会社輝楽里
株式会社輝楽里は、技能実習生の継続的な受け入れと並行して特定技能外国人の雇用に注力している企業です。自社の技能実習3号の修了生を特定技能として採用し、働きやすい環境を整えています。
特定技能として採用する場合には、給与も技能実習とは区別し、業務内容やスキル、責任なども考慮した納得のできるシステムの構築や、将来的なキャリアアッププランも用意しており、安心して働けるような社内体制の整備に努めています。
有限会社フォーレ白老
有限会社フォーレ白老も自社の技能実習の修了生向けに中国人やベトナム人の特定技能外国人の採用に注力しています。採用の際、技能実習制度との違いや、生活面における支援の説明も行い、理解に努めています。
給与面では、技能実習生の指導を行った場合には、別途手当を支給しています。技能実習生の模範としての特定技能外国人を組織の中で確立していこうと、仕組みを整えています。
畜産
かすみがうら農場
かすみがうら農場では農業従事者の高齢化に伴って、将来的にリーダー格となれるような若い特定技能人材の採用に注力しています。特定技能人材は、農業関係の専門学校在学中に研修生として受け入れ(インターン)、学校を卒業して働いてもらっています。
若い人材を受け入れることで、組織が活性化し労働力アップにつながっており、職場環境を良くする効果を示す好事例といえるでしょう。
農業生産法人 株式会社和洋デイリーファーム
農業生産法人 株式会社和洋デイリーファームは、人手不足の解消や従業員の労働時間の適正化を図るため、登録支援機関から紹介された技能実習3号の修了者を特定技能人材として採用しました。
交流支援では、定期的な面談を実施し、登録支援機関の通訳とはLINEを活用し、コミュニケーションを図っています。真面目に働く姿勢が他の従業員にも好影響を与えており、職場の活性化につながっています。
農業分野の特定技能外国人を採用するには?
特定技能外国人を自社へ迎え入れるためには、業務だけでなく生活面も含めたサポートを継続的に行っていく必要があります。
自社で全ての支援を行うことも可能ですが、ほとんどの場合で、支援を代行してもらえる「登録支援機関」への委託が必須です。直近2年間で受け入れ実績がない、生活相談に従事した職員がない場合は、支援の委託が求められます。
また、農業分野の特定技能外国人の採用には、受け入れ企業の農業特定技能協議会への入会が求められるのも忘れずに準備しましょう。
条件や手順を押さえて農業分野の特定技能外国人を採用しましょう!
特定技能「農業」は、技能実習よりも適用となる業務範囲が広く、長期で業務を任せられる可能性があるため、人手不足に悩む農業事業者にとっては魅力的な制度であるといえます。
特定技能外国人を雇用する際には、複数の条件をクリアする必要があり、事前に入念な準備を怠らず進めることが、スムーズな採用につながります。本記事を参考に農業分野の特定技能外国人の採用に向けて行動してみてはいかがでしょうか。
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