労働人口の減少が著しい日本社会において、国内での外国人人材の活躍が期待されています。しかしながら外国人を雇用する企業の中には、「外国人は賃金が安く済む」、「技能実習は人材の補完」という誤った認識が根付いているため、外国人に不利益が及ぶことがあります。
雇用企業にとっては、人材の長期雇用を念頭に働きやすい環境を提供することが求められます。この記事では、外国人の賃金や給与設定に着目し、守るべき法令やポイントについて解説します。
外国人労働者の現状
外国人労働者が増加傾向にある国内では、外国人は日本人と同様に最低賃金が保証されています。しかしながら外国人と日本人との間に賃金の乖離があります。令和5年賃金構造基本統計調査によると、外国人労働者の賃金は月額232,600円(平均年齢:33.0歳)である一方で、日本人は286,000円(年齢:30~34歳)となっているのです。
この原因としては、後述しますが、外国人労働者の中でも在留区分によって賃金に乖離があることが大きいです。これら現状の詳細を解説しつつ、これから外国人の雇用を検討する企業がどのようなことを遵守すべきかを紹介します。
最低賃金の定義
厚生労働省は、最低賃金を以下のように定義しています。
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。
また、労働基準法では、給与額が最低賃金を満たすことが求められており、守らない場合違法となります。最低賃金は、給与を時給換算したうえで、各都道府県が定める最低賃金の金額を満たすかを確かめましょう。最新の最低賃金は以下よりご確認下さい。
在留資格別の雇用規制と平均賃金
令和5年賃金構造基本統計調査の在留資格別の平均賃金は以下の通りです。
在留資格区分 | 賃金 | 年齢/勤続年数 |
専門的・技術的分野(特定技能を除く) | 296,700円 | 31.8歳/3.0年 |
特定技能 | 198,000円 | 28.9歳/2.4年 |
身分に基づくもの | 264,800円 | 44.7歳/5.7年 |
技能実習 | 181,700円 | 26.2歳/1.7年 |
専門的・技術的分野(特定技能を除く)
専門的・技術的分野に該当する資格区分は以下の通りです。
▼含まれる在留資格
教授、芸術、宗教、報道、高度専門職、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術・人文知識・国際業務、企業内転勤、介護、興行、技能
平均賃金は、296,700円となっています。在留資格ごとに細かく条件が定められており、取得も分野によっては難しいものもあるため賃金は比較的高めに設定されています。
企業の採用割合としては、エンジニアやデザイナーなどでの「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で雇用する場合が多いです。
特定技能
特定技能は、特定技能外国人制度によって来日した外国人の賃金を指します。平均賃金は、198,000円となっています。分野によって平均賃金に差はありますが、技能実習と比べると賃金が高い傾向があります。
特定技能は1号および2号がありますが、昨今、制度の拡大に伴い見直しが図られています。技能実習からの移行も可能なため、最新情報を随時確認することをおすすめします。
身分に基づくもの(永住者や日本人の配偶者等)
身分に基づくものは、永住者や日本人の配偶者を指し、日本人と同様にどんな職種でも就業可能です。平均賃金は264,800円となっていますが、同年代の日本人平均賃金は、338,800円となっており、5万円程度の乖離があるのです。
技能実習生
技能実習は外国人技能実習制度を利用し、日本の専門分野の知識・技能を自国へ伝えることを目的として来日する技能実習生に与えられる賃金を指します。技能実習においては、在留資格の中でも平均賃金が低い現状が続いています。この理由としては、最低賃金を原則とする監理団体や受け入れ後の企業の変更はできない等の制限があることが考えられます。
技能実習制度は国内外から問題視される側面があり、昨今見直しが図られています。
外国人が日本での雇用を求める理由
- 母国より賃金が高いため
- キャリアップのため
- 労働環境が良いため
外国人が日本で雇用を求める理由を知り、日本企業および自社がなぜ魅力的に感じるのかを深掘りすることで、採用活動につなげていきましょう。
母国より賃金が高いため
日本の生活費は高い傾向があるため、東南アジアや南米などの国々に比べて、日本での給料は高く設定されています。東南アジアでは物価が低いため、日本で得た収入は彼らの母国での収入の数倍になることが多く、多くの外国人労働者が日本で稼いだお金を家族に送金しています。
また、専門性の高い業界での求人も多く、技術やエンジニアリング分野では年収が700万円以上に達することもあります。日本の先進的な技術産業の一環として、外国人技術者に高い給料が支払われるため、魅力的に感じるでしょう。
キャリアップのため
日本では高度な専門職の外国人労働者を積極的に受け入れる企業が増えており、技術や伝統を重んじる中小企業が外国人専門家の雇用に積極的。専門的なスキルを活かしてキャリアを築くことができます。
日本のホスピタリティ業界では、外国人労働者がスキルを磨きながらキャリアアップを目指すことが一般的です。この業界での経験は国際的にも価値が認められており、将来的にはグローバルなキャリアにつながる可能性があります。
労働環境が良いため
日本の企業は終身雇用や年功序列などの特徴があり、福利厚生が充実している企業も多いです。これにより、長期的に企業に貢献することで自然と昇進し、キャリアを築くことが可能です。
また、労働基準法に基づき、公正な労働条件が保証されており、安全で健康的な職場が法律によって支持されています。国際的にも比較的良好な労働環境であることが示唆されます。近年では、特に長時間労働の削減が進んでいます。平均労働時間が徐々に減少しており、ワークライフバランスの改善に向けた取り組みも注目されているのです。
外国人雇用における給与設定の考え方
- 最低賃金を担保する
- 同一労働同一賃金を遵守する
- 割増賃金にも留意する
給与や賃金の考え方として、抑えておくべきポイントを紹介します。これから外国人の雇用を検討される企業はぜひ参考にしてみてください。
最低賃金を担保する
前述の通り、外国人も日本人と同様に最低賃金法が適用されるため、最低賃金以上の給与を受け取ることが法的に保証されています。これを下回る賃金を支払うことは法律違反となり、罰則が科せられる可能性があります 。
技能実習生として働く外国人も同様に、最低賃金の保障がされていますが、最低賃金を下回る賃金での雇用が確認される事例もあり、労働基準法違反が問題視されています。
同一労働同一賃金を遵守する
同一労働同一賃金は、外国人労働者が同じ業務・職位の日本人と同様の賃金を支払うことを指します。同じ仕事をしているにもかかわらず、契約形態によって給与や福利厚生に差がある場合、それを是正する措置が求められるのです。
また、外国人労働者の場合は、就労が許可されている範囲内での活動が必要であり、雇用主は外国人労働者の在留資格を確認し、適切な管理を行う必要があります。
割増賃金にも留意する
日本で外国人を雇用する際、割増賃金についても適切に遵守することが求められます。割増賃金とは、残業や休日労働、夜間労働など特定の条件下で労働した場合に支払われる追加の賃金のことです。
- 時間外労働:25%以上
- 休日労働:35%以上
- 深夜業(午後10時から翌日午前5時までの間の労働) :25%以上
割増賃金は重複して発生する場合もあり、深夜業かつ時間外労働の条件が満たされる場合は、合計50%以上の賃金を支払う必要があります。一方で、法定休日には法定労働時間が存在しないため、時間外労働による割増賃金は発生しません。
参考:厚生労働省 法定労働時間と割増賃金について教えてください。
外国人と税金の関係
外国人労働者も日本での就業経験のなさに伴って、税金が課されます。日本で住所を持ち、1年以上居所がある場合は、「居住者」に分類されます。居住者はさらに、過去10年間のうち、日本に住所・居所を有していた期間の合計が5年以上となると「永住者」に区分されます。永住者は、すべての国内所得、海外所得に対して、課税されます。
上記以外の非永住者の場合は、全ての国内所得および、国内へ支払われる海外所得のみに限り課税されます。非永住者は、所得の20.42%が源泉徴収され、給与所得控除は発生しません。
外国人の課税については、日本の給与から天引きされる仕組みに馴染みのない人もいると思います。そのため入社して間もない人材は戸惑ってしまうこともあるでしょう。どのような仕組みでいくら課税されているのかを丁寧に説明することが大切です。
給与設定は在留資格にも関わる?
特定技能外国人を受け入れる際には、支援計画に沿った雇用契約を結ぶことが求められています。特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令では、所定労働時間や報酬額の定めがあります。
(特定技能雇用契約の内容の基準)
第一条 出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)第二条の五第一項の法務省令で定める基準のうち雇用関係に関する事項に係るものは、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)その他の労働に関する法令の規定に適合していることのほか、次のとおりとする。
一 出入国管理及び難民認定法別表第一の二の表の特定技能の項の下欄に規定する産業上の分野等を定める省令(平成三十一年法務省令第六号)で定める分野に属する同令で定める相当程度の知識若しくは経験を必要とする技能を要する業務又は当該分野に属する同令で定める熟練した技能を要する業務に外国人を従事させるものであること。
二 外国人の所定労働時間が、特定技能所属機関に雇用される通常の労働者の所定労働時間と同等であること。
三 外国人に対する報酬の額が日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること。
四 外国人であることを理由として、報酬の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的な取扱いをしていないこと。
これらを満たしていないと、特定技能外国人の受け入れができなくなってしまうリスクとなるでしょう。
引用:e-gov 法令検索 特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令(平成三十一年法務省令第五号)
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外国人人材の雇用は、賃金や給与設定の決定の規則を明確に定めておかなければ、不平不満につながります。外国人を複数人採用する場合は、待遇の差を合理的に説明できるように、入念な準備をすることが大切です。その他、税金や在留資格についても複雑な面があります。その都度丁寧に外国人に説明することが、企業と人材の信頼を維持するポイントとなるでしょう。
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