在留資格・特定技能外国人制度(以下「特定技能」)は、即戦力となる外国人材の雇用を促し国内で深刻化する人手不足を解消するため2019年4月に創設されました。
航空業界も人材確保が難航するなど将来に不安を感じる企業が多く、特定技能導入による改善が期待されています。しかし、「特定技能はどんな制度なのか」「受け入れ基準がわからない」など、疑問点も多いのではないでしょうか?
本記事では、「航空業」の特定技能外国人材の受け入れ方法や注意点、費用について解説します。
在留資格・特定技能外国人制度「航空業」とは
特定技能「航空業」は、外国人材が航空業界で従事するために必要な在留資格です。即戦力となる外国人採用ができれば、航空業界で懸念されている人手不足の解消が期待できます。
ここでは、航空業界の現状と特定技能「航空業」を取得した外国人材の雇用形態を紹介します。
航空業界の現状
訪日外国人旅行者やLCC事業拡大に伴い、国際線の旅客数は5年間で約1.6倍、着陸回数は約1.5倍に増加し地方空港でも旅客数や着陸回数の増加がみられます。政府は2030年の訪日外国人旅行者数の目標を6,000万人としており、日本の航空需要は今後さらに増加するでしょう。
しかし、不規則な勤務や屋外での過酷な作業など航空業界の労働環境は、現代の日本で嫌厭されがちです。近年、航空専門学校では入学者数の定員割れが常態化しており、現役整備士の高齢化による大量退職が危惧されているなど、今後は国内の航空業界全体で人手不足が深刻化していくとみられています。
特定技能に関しても、「航空業」で就労している特定技能外国人材は、令和5年11月末の統計で595人と未だ上限人数の1,300人に達していません。
特定技能1号と2号の違い
2024年から特定技能「航空業」でも、特定技能2号の取得が可能になりました。特定技能1号と2号の違いを下記にまとめたので、参考にしてみてください。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
試験レベル | 相当程度の知識や技能を有する | 熟練した知識や技能を有する |
取得方法 | 日本語試験+技能検定1級合格
もしくは 「航空機地上支援作業」「航空貨物取扱作業」「客室清掃作業」技能実習2号からの移行(空港ハンドリング業務のみ) |
技能検定2級合格もしくは
航空従事者技能証明の取得 +実務経験 |
在留期間 | 通算5年
4か月・6か月・1年ごとの更新 |
申請上限なし
6か月・1年・3年ごとの更新 |
家族帯同 | 基本的に☓ | 要件を満たせば◯ |
支援計画の策定 | 必須 | 不要 |
特定技能外国人の雇用形態
特定技能外国人材の雇用は直接雇用のみで、派遣雇用は禁止されています。特定技能外国人を派遣もしくは派遣を受け入れた場合、出入国に関する法令に違反するため以後5年間は特定技能外国人の受け入れができなくなるので注意が必要です。
就労はフルタイムで週5日以上、年間217日以上、週労働30時間以上と定められており、賃金は日本人と同等以上にする必要があります。
特定技能「航空業」取得の外国人人材が担える業務
特定技能「航空業」は、「空港グランドハンドリング業務」と「航空機整備業務」の2つの区分に分かれています。取得した在留資格で従事できる業務が異なるので、特定技能取得の外国人材を採用する際は注意しましょう。
空港グランドハンドリング業務とは
特定技能の「航空業」空港グランドハンドリング業務の在留資格を取得した外国人材が担える業務を以下にまとめました。
在留資格区分 | 可能な業務内容 |
特定技能1号 | 社内資格等を有する指導者やチームリーダーの指導・監督の下、地上走行支援業務、手荷物・貨物取扱業務等 |
特定技能2号 | 社内資格等を有する指導者やチームリーダーとして地上走行支援業務、手荷物・貨物取扱業務等に従事し工程を管理 |
航空機整備業務とは
特定技能の「航空業」航空機整備業務の在留資格を取得した外国人材が担える業務を以下にまとめました。
在留資格区分 | 可能な業務内容 |
特定技能1号 | 機体、装備品等の整備業務等 |
特定技能2号 | 自らの判断により行う機体、装備品等の専門的・技術的な整備業務等 |
附随する関連業務
空港グランドハンドリング業務、航空機整備業務に従事する外国人材は、共に同じ航空業務で作業する日本人が日常的に従事している関連作業も行うことができます。関連業務として挙げられる業務の一例は以下の通りです。
- 事務作業や作業場の整理整頓・清掃
- 積雪時の作業場の除雪など
特定技能「航空業」取得の外国人人材の技能水準
特定技能「航空業」の在留資格を取得した外国人材は、公益社団法人日本航空技術協会が実施する下記の試験に合格しているので即戦力として期待できます。試験内容は、空港グランドハンドリング業務と航空機整備業務で異なるので、採用時の参考にしてみてください。
空港グランドハンドリング業務の取得方法
空港グランドハンドリング業務の試験は、国内海外で実施されています。1号、2号の取得内容は下記の通りです。
資格区分 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
航空分野技能評価試験 | 航空分野技能1号評価試験
・ランプエリア内での安全・セキュリティー確保 ・貨物のハンドリング ・手荷物のハンドリング ・客室内清掃 ・誘導作業 |
航空分野技能2号評価試験 |
実務経験 | 現場において新入社員等の技能者を指導しながら作業に従事した実務経験 | |
日本語検定 | ・日本語能力試験はN4以上
・国際交流基金日本語基礎テスト いずれかに合格。 合格水準は、ある程度の日常会話ができ生活に支障がない程度の能力を有する。 |
航空機整備業務の取得方法
2024年度の航空機整備業務の特定技能評価試験の実施は、海外のみで予定されています。1号、2号の取得内容は下記の通りです。
資格区分 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
航空分野技能評価試験 | 航空分野技能1号評価試験
・航空機の基本技術【締結/電気計測】 ・作業安全・品質 ・航空機概要 |
・航空分野技能2号評価試験合格
もしくは ・以下の航空従事者技能証明の取得 一等航空整備士(飛行機) 一等航空整備士(回転翼航空機) 二等航空整備士(飛行機) 二等航空整備士(回転翼航空機) 一等航空運航整備士(飛行機) 一等航空運航整備士(回転翼航空機) 二等航空運航整備士(飛行機) 二等航空運航整備士(回転翼航空機) 航空工場整備士(機体構造関係) 航空工場整備士(ピストン発動機関係) 航空工場整備士(タービン発動機関係) 航空工場整備士(プロペラ関係) 航空工場整備士(計器関係) 航空工場整備士(電子装備品関係) 航空工場整備士(電気装備品関係) 航空工場整備士(無線通信機器関係) |
実務経験 | 現場において専門的な知識・技量を要する作業を実施した3年以上の実務経験 | |
日本語検定 | ・日本語能力試験はN4以上
・国際交流基金日本語基礎テスト いずれかに合格。 合格水準は、ある程度の日常会話ができ生活に支障がない程度の能力を有する。 |
技能実習生からの移行
技能実習2号「航空機地上支援作業」「航空貨物取扱作業」「客室清掃作業」を良好に修了している実習生は、空港グランドハンドリング業務の特定技能1号に在留資格の移行ができます。ただし、特定技能「航空業」で技能実習から特定技能に移行した実績はなく、現在、特定技能「航空業」で採用されている特定技能外国人は全員試験合格者です。
また、航空機整備業務は移行できる技能実習の対象区分がないので、特定技能試験を受ける必要があります。
特定技能「航空業」で外国人人材を雇用する条件
特定技能外国人人材の受け入れ企業を特定技能所属機関といい、特定技能外国人を採用するには企業側にも条件があります。ここでは、「航空業」の特定技能所属機関になるための要件を紹介しているので、必ず確認しましょう。
法令等に基づく事業所である
特定技能機関として外国人材を雇用できるのは、下記に該当する事業所に限られます。申請の際は、承認書などの書類提出が義務付けられているので確認が必要です。
また、特定技能外国人から航空分野に係る実務経験証明書の交付を求められた場合は、書面を交付する義務があります。交付を怠ると基準に適合しないとみなされ受け入れができなくなるので注意しましょう。
- 空港グランドハンドリング業務…業務空港管理規則に基づく構内営業承認等を受けた事業所
- 航空機整備業務…航空法に基づく航空機整備等に係る認定事業場を有する事業者
航空分野特定技能協議会へ加入
特定技能「航空業」の特定技能機関は、国土交通省が運営する「航空分野特定技能協議会」に加入する必要があります。加入費や年会費はかかりませんが、該当する特定技能外国人が来日してから4か月以内に加入しなくてはなりません。
日常生活や社会生活に関する支援体制の構築及び実施
特定技能外国人材を採用するためには、該当する外国人の生活支援を行う必要があります。支援内容として下記の10項目が省令で定められており、登録支援機関に委託するケースが一般的です。自社での実施が難しい場合は、登録支援機関への委託も検討してみましょう。
- 事前ガイダンス
- 生活オリエンテーション
- 出入国する際の送迎
- 住居や生活に必要な契約支援
- 公的手続き等への同行
- 日本語学習機会の提供
- 相談・苦情への対応
- 日本人との交流促進
- 転職支援
- 定期的な面談・行政機関への通報
登録支援機関に支援を委託する場合の注意点
特定技能「航空業」で外国人材を採用する場合は、委託先の登録支援機関も下記の条件を満たす必要があります。支援を委託する場合は、利用する登録支援機関が該当しているかを確認しましょう。
- 「航空分野特定技能協議会」に加入している
- 協議会に対し必要な協力を行う
- 国土交通省が行う調査や指導への協力
在留資格・特定技能「航空業」の外国人人材確保や申請の際に留意する点
特定技能は他の在留資格と比べて提出書類が多く、定期報告は四半期に一回、随時報告はその都度行う必要があります。さらに、特定技能「航空業」は技能実習からの移行が難しく航空機整備業務に関しては現状、海外で試験に合格した特定技能外国人しか受け入れができません。そのため、「航空業」で特定技能外国人を採用する場合、海外から外国人材を呼ぶ必要があり、特定技能外国人が就労するまで長い期間と費用を要すると考えられます。
また、特定技能「航空業」はコロナの影響を受け、令和5年度末まで外国人材の受け入れ上限人数を2,200人から1,300人に変更しました。令和6年以降は受け入れ上限人数の拡大が予想されますが、上限数に達してしまうと受け入れができなくなってしまうので、特定技能外国人材の採用を検討している場合は早めの対応がおすすめです。
特定技能「航空業」で外国人人材を採用するためにかかる費用
特定技能外国人材を採用すると、どのくらいの費用がかかるのか気になりますよね。実際に特定技能外国人材を採用した際にかかる大まかな費用を下記にまとめたので参考にしてみてください。
人材会社への紹介手数料 | 人材会社経由で外国人を採用した場合の手数料 | 30~50万円 |
在留資格の申請・変更手続きの委託費用 | 手続きが煩雑なので、申請業者に委託するのが一般的 | 10~20万円 |
健康診断費用 | 受け入れ企業の義務である特定技能外国人の健康診断にかかる費用 | 1万円 |
事前ガイダンスや生活オリエンテーションの委託費用 | 実施を外部に委託する場合の委託金 | 2~4万円/項目 |
登録支援機関への委託費用 | 登録機関へ義務的支援などを委託する場合、特定技能外国人一人当たりにかかる費用 | 2~3万円/月 |
在留資格の更新申請代行費用 | 在留資格を更新する際にかかる費用 | 6~10万円 |
航空機整備業など海外から外国人材を迎える場合、上記に加え住居の準備費用や渡航費などがかかるケースもあります。国によっては給与の1〜3ヶ月分かかる送り出し費用が必要です。
まとめ
特定技能「航空業」は、試験の実施場所の拡大など今後の展開も期待できます。既に即戦力として活躍している特定技能外国人も多く、外国人採用は新たな人材確保のツールとなっていくでしょう。
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