日本の伝統産業である陶磁器製品製造業は、いま深刻な人手不足に直面しています。後継者不足や働き手の高齢化が進むなか、「特定技能」という新しい在留資格が、この課題を解決する鍵として注目されています。
この記事では、2024年に新設された特定技能「陶磁器製品製造」分野について、制度の基本から具体的な採用手続き、受け入れ後のサポートまで、人事担当者や経営者の方が知りたい情報を網羅的に解説します。
この記事を最後まで読めば、特定技能制度を活用して即戦力となる外国人材を確保し、貴社の未来を切り拓くための具体的なステップが明確になるでしょう。
本ガイドは、採用コストの最適化や法令を遵守した円滑な受け入れ体制の構築を目指す企業様にとって、必ず役立つ内容となっています。専門用語も分かりやすく説明しながら、採用から就業開始までの流れを一つひとつ丁寧に追っていきますので、ぜひご活用ください。
特定技能という選択肢が、貴社の生産ラインを守り、日本のものづくりの伝統を未来へつなぐ一助となることを願っています。
この記事でわかること
この記事では、特定技能「陶磁器製品製造」についての基礎知識から、工業製品製造業分野における位置づけ、実際に働く外国人材の現状までをわかりやすく整理しています。
さらに、採用方法や必要な日本語能力、受け入れ企業に求められる基準や支援体制、就業開始までの具体的な流れについても詳しく説明します。
この記事を読むことで、企業の人事担当者や経営者が、特定技能制度をどのように活用すれば効果的な採用と人材定着につながるのか、全体像を把握できるようになります。
特定技能「陶磁器製品製造」とは

「陶磁器製品製造」の特定技能は、2024年に新たに設けられた在留資格の区分で、深刻な人手不足に直面する陶磁器産業において、一定の技能と日本語能力を持つ外国人材を受け入れるための仕組みです。
この制度によって、従来の技能実習制度ではカバーしきれなかった長期的かつ安定した雇用が可能となり、日本の伝統産業を支える新しい担い手を確保できるようになりました。
特定技能とは?
特定技能は、2019年に創設された在留資格で、人手不足が深刻な産業分野において一定の技能と日本語能力を持つ外国人を受け入れることを目的としています。
特定技能1号では、通算5年間の在留が認められており、即戦力として現場で活躍できることが大きな特徴です。陶磁器製品製造は2024年に新設され、この制度を通じて外国人材の受け入れが可能となりました。
工業製品製造業分野における位置づけ
2024年3月の制度改正により、従来の「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」は「工業製品製造業分野」へと再編されました。
この改正によって、日本の製造業全体に広がる人手不足に対応するための枠組みが拡大され、陶磁器製品製造を含む7つの新業務区分が追加されました。
対象となるのは、日本標準産業分類の2142(陶磁器製品製造業)、2143(陶磁器装飾業)です。具体的には、食器、タイル、装飾陶器などを製造する事業所が含まれます。
これにより、技能実習制度だけでは対応しきれなかった長期的で安定した雇用が可能となり、業界全体の持続可能性を高めることが期待されています。
さらに、工業製品製造業分野における受入れ企業は、在留資格の申請前に「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会(JAIM)」に加入することが義務付けられています。
これは業界全体で法令遵守を徹底し、適正な受け入れを推進するための仕組みです。
陶磁器製品製造で働く外国人材の現状
陶磁器産業では従来から技能実習生が働いてきましたが、技能実習制度は「国際貢献」を目的としたもので、在留年数に上限があるため、長期的な雇用や技術承継には結びつきにくいという課題がありました。
これに対し、特定技能制度は「人手不足解消」を目的とし、即戦力となる外国人材を受け入れる仕組みです。陶磁器製品製造が新設区分に加わったことで、技能実習2号を良好に修了した人材の移行や、評価試験に合格した人材の採用が可能となりました。
出入国在留管理庁の統計によれば、令和6年12月末時点で工業製品製造業分野全体では45,183人が特定技能1号の在留資格で就労しています。陶磁器製品製造は新設区分のため、現時点での人数はまだ限定的ですが、今後の増加が期待されています。
特に地方の陶磁器産地では、若年層の入職者不足や事業所の廃業が深刻な課題です。外国人材の活用は、単なる労働力の補完にとどまらず、地域産業の維持や伝統技術の承継に大きく貢献する可能性があります。
参照:出入国在留管理庁|特定産業分野・業務区分別 特定技能1号在留外国人数(令和6年12月末現在)
特定技能で従事できる陶磁器製品製造の対象業務

特定技能「陶磁器製品製造」分野で外国人材が従事できる業務内容は、出入国在留管理庁の運用要領で明確に定められています。
これは、採用後のミスマッチを防ぎ、適正な労務管理を行うための重要な指針です。主に「成形」「焼成」「加飾」の3つの工程が中心となり、それに付随する関連作業も認められています。
中核となる主業務(成形・焼成・加飾)
陶磁器づくりの中心的な工程である「成形」「焼成」「加飾」は、特定技能人材が従事できる中核業務です。いずれも製品の品質を左右する重要な作業であり、専門的な技能が求められます。
- 成形:粘土を器の形に整える作業。機械ろくろで茶碗や皿を成形する方法や、石膏型に泥漿(でいしょう)と呼ばれる液状粘土を流し込む「鋳込み成形」などが含まれます。
- 焼成:成形した製品を窯で焼き固める作業。窯の温度管理や焼成時間の調整、窯詰め・窯出しといった工程が代表的です。製品の種類や釉薬によって条件が異なるため、経験と知識が必要です。
- 加飾:焼き上がった製品に模様や絵付けを施す作業。筆で描く「手描き」のほか、印刷技術を応用した「パッド印刷」や「スクリーン印刷」なども含まれます。
これらの工程は、いずれも日本の陶磁器産業において技術承継が急務とされる分野であり、特定技能人材の活躍が期待されています。
付随的に認められる業務
主業務の前後や周辺で行われる関連作業も、付随業務として従事が認められています。ただし、あくまで補助的な位置づけであり、これらのみを専ら行うことは認められていません。
- 原材料や部品の搬送・準備(粘土や釉薬の運搬など)
- 前後工程の補助(例:成形担当者が焼成の窯詰めを補助する)
- 作業場や機械の清掃・保守
- フォークリフトやクレーン資格を持つ場合の運搬作業
これらの付随業務は現場の流れを円滑にし、主業務を支える役割を果たします。企業は、特定技能人材が主業務と付随業務のバランスを保ちながら働けるよう配慮することが求められます。
従事できない業務
一方で、特定技能「陶磁器製品製造」では従事できない業務も明確に定められています。これらを正しく理解することは、制度の適正な運用とトラブル防止に直結します。
- 付随業務のみの従事:清掃や原材料の運搬といった補助業務だけを専ら担当させることは認められていません。
- 製造以外の業務:陶磁器の販売や営業、事務作業など、製造工程に直接関わらない業務は対象外です。
- 資格を要する危険作業:フォークリフトやクレーンなどの有資格作業は、当該資格を持っていない場合には従事できません。
- 単純作業のみ:技能や判断力を伴わない単純作業(荷下ろし、倉庫整理など)に専ら従事させることは制度の趣旨に反します。
これらの禁止事項は、特定技能制度が「即戦力としての技能を活かす」ことを目的としているためです。受入れ企業は、制度の趣旨に沿った適正な業務配置を行う必要があります。
陶磁器製品製造の特定技能で働くには?

陶磁器製品製造の分野で特定技能として働くためには、一定の技能と日本語能力が必要です。基本的には「試験合格」と「技能実習からの移行」の2つのルートがあり、それぞれ要件が異なります。ここでは、特定技能人材となるための代表的な方法を解説します。
特定技能評価試験(技能試験)
技能実習経験のない人材を採用する場合は、製造分野特定技能1号評価試験に合格することが必要です。この試験は、陶磁器製品製造に関する基本的な知識や技能を確認するもので、学科と実技で構成されています。
- 学科:安全衛生、品質管理、陶磁器製造に関する基礎知識(材料、成形、焼成など)
- 実技:図面や指示書を理解し、適切に機械や道具を使って作業できるかを確認
試験の水準は、日本の技能検定3級に相当するとされており、国内外で実施されています。合格者は、一定の基礎技能を持つ即戦力として雇用可能です。
日本語能力試験
特定技能として働くには、日本語での基本的なコミュニケーション力も求められます。条件は以下のいずれかを満たすことです。
- 日本語能力試験(JLPT)N4以上に合格
- 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)に合格
JLPT N4は「基本的な日本語を理解できる」水準とされ、日常会話や職場での基本的な指示を理解できるレベルです。JFT-Basicは生活や就労に必要な日本語運用力を測定するテストで、CEFR A2に相当します。
いずれも「技能実習からの移行者」は免除されますが、新規に採用する場合は必須となります。現場での安全確保や指示理解に直結するため、日本語力の確認は採用段階でしっかり行うことが大切です。
技能実習からの移行
これまで日本で技能実習生として陶磁器製造に従事してきた外国人は、技能実習2号を良好に修了していれば、技能試験や日本語試験が免除され、特定技能1号へ移行できます。
対象となるのは、技能実習の「陶磁器工業製品製造」職種のうち、機械ろくろ成形、圧力鋳込み成形、パッド印刷といった作業を修了した人材です。これらの経験者は既に一定の技能水準を証明済みであるため、採用後すぐに現場で即戦力として活躍できると期待されます。
技能実習からの移行は、企業にとっても候補者が日本の生活習慣や職場環境に慣れている点で安心感があり、最もスムーズな採用ルートといえます。
受け入れ企業に求められる基準と体制
特定技能外国人を受け入れる企業は、法令を遵守した適切な雇用環境と生活支援体制を整備することが求められます。これらの基準は、外国人材が安心して働き、日本社会に円滑に定着できるように設けられています。以下では、企業が満たすべき代表的な要件を解説します。
受入れ機関(企業)の要件
まず、受け入れる企業は健全な事業運営を行っていることが前提です。具体的には以下の基準があります。
- 労働基準法や社会保険、税務に関する法令を遵守していること
- 過去5年以内に出入国管理法や労働法令で重大な違反がないこと
- 過去1年以内に、同種業務の労働者を不当に解雇していないこと
- 過去1年以内に、受け入れた外国人が行方不明になる事案を発生させていないこと
特に陶磁器製品製造を含む工業製品製造業分野では、在留資格申請前に「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」への加入が義務付けられています。これは業界全体で適正な受け入れを推進するための仕組みであり、採用計画の初期段階で準備を進めることが重要です。
雇用契約の基準
特定技能外国人と結ぶ雇用契約は、日本人と同等以上の労働条件でなければなりません。特に報酬に関しては「同種業務の日本人と同等以上」であることが法令で定められています。
- 給与は口座振込で支払うこと(記録を明確に残すため)
- 労働時間、休日、休暇は労働基準法に準拠
- 雇用契約の内容は、外国人が理解できる言語で説明・交付すること
契約内容を母国語で説明し、翻訳版の契約書を渡すことで、認識の齟齬を防ぐことができます。
支援計画の義務
特定技能1号を受け入れる企業には、外国人が安定して就労・生活できるよう支援計画を作成・実施する義務があります。支援は自社で行うか、登録支援機関に委託することが可能です。法律で定められている支援内容は以下の通りです。
- 入国前ガイダンス(雇用条件や生活ルールを母国語で説明)
- 空港での出迎え・帰国時の見送り
- 住居確保や生活インフラ(銀行口座、携帯電話など)の契約支援
- 生活オリエンテーション(社会ルール、防災、交通安全など)
- 行政手続きへの同行(住民登録など)
- 日本語学習機会の提供
- 日常生活・職場での相談窓口の設置
- 地域交流の支援
- 転職支援(やむを得ない離職時)
これらの支援を行った内容は記録・報告が義務付けられており、定期的に出入国在留管理庁へ提出する必要があります。適切な支援を行うことで、人材の定着率向上にもつながります。
採用決定から就業開始までの手続きフロー
特定技能外国人を採用する場合、就業開始までにいくつかの公的な手続きが必要です。採用する人材が海外にいるか、すでに日本国内にいるかで流れが異なるため、事前に把握しておきましょう。
関連記事:【2025年最新版】外国人を採用する際の手続き・ポイントを解説!
海外在住者の場合
海外から呼び寄せる場合は、まず企業が「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」に加入し、雇用契約・支援計画を整えます。
そのうえで、出入国在留管理庁に在留資格認定証明書を申請し、交付された証明書を外国人本人に送付します。本人は現地の日本大使館・領事館でビザ申請を行い、発給後に来日する流れです。
国内在住者の場合
技能実習生や留学生など、すでに日本に滞在している場合は在留資格変更許可申請を行います。
協議会への加入、雇用契約・支援計画の準備は同様ですが、在留資格認定証明書は不要です。申請が許可されると、新しい在留カードが交付され、その時点から特定技能としての就労が可能となります。
就業開始後の届出
就業開始後も、企業には四半期ごとの受入れ状況報告や、契約変更・離職などがあった場合の随時届出義務があります。
報酬の支払い状況や支援計画の実施内容も報告対象です。これらを怠ると罰則の対象となるため、計画的な管理体制を整えることが重要です。
まとめ:特定技能人材で未来を切り拓く
本記事では、特定技能「陶磁器製品製造」について、制度の概要から対象業務、必要な試験、受け入れ企業の体制、そして採用から就業開始までの流れを解説しました。
深刻な人手不足と技術承継の課題を抱える陶磁器業界において、特定技能人材の受け入れは、生産ラインの安定と伝統技術の継承を支える有効な手段となります。
企業には法令遵守と生活支援の責任が伴いますが、それを果たすことで優秀な人材が定着し、持続的な成長につながります。
未来の担い手となる外国人材と共に、日本の陶磁器づくりの魅力を次世代へ、そして世界へと広げていきましょう。