本記事では、特定技能「漁業」制度の基本的な内容から、対象業務・受け入れ条件・試験制度・雇用のメリットまでを、公的機関のデータを交えながら解説します。制度の全体像を理解することで、現場での人手不足対策や適正な雇用に役立つ知識が得られます。
漁業・養殖業に携わる企業の経営者や人事担当者が、外国人材の受け入れに際して持つ疑問や不安を解消できるよう、制度の仕組みや導入時の注意点をわかりやすく整理しています。初めて制度を検討する方にも理解しやすい構成となっています。
特定技能「漁業」制度は、2019年の入管法改正により創設されました。水産業における人手不足や高齢化の課題を受けて、即戦力として活躍可能な外国人材の受け入れが可能となっています。
すでに3,000人以上の外国人が在留資格を得て現場で活躍しており(2024年12月時点)、今後の人材確保の柱として注目されています.
この記事でわかること
この記事では、外国人材の受け入れを検討する企業向けに、特定技能「漁業」制度の基本的な仕組みや導入の背景、対象となる業務内容、必要な試験とその合格基準、企業側に求められる受け入れ条件などをわかりやすく解説します。
さらに、制度を導入することで得られる雇用上のメリットや、運用にあたっての注意点についても、公的機関の統計や現場の実例を交えながら丁寧に紹介しています。
制度全体を把握することで、企業が安心して採用活動を進めるための基礎知識が身につく内容となっています。
特定技能「漁業」の概要

特定技能「漁業」は、日本の漁業・養殖業における人手不足への対応を目的として、2019年に新たに創設された在留資格です。このセクションでは、制度の全体像や導入の背景、対象となる人材の特徴について順を追って紹介していきます。
特定技能「漁業」とは
特定技能「漁業」は、2019年4月に施行された改正出入国管理法により創設された在留資格です。日本の漁業・養殖業分野において、慢性的な人手不足を補うため、一定の技能と日本語能力を有する外国人を即戦力として受け入れることが可能になりました。
この制度では、漁業に必要な知識と実務経験を有し、日本語能力試験(N4以上)と技能試験に合格した18歳以上の外国人が対象となります。受け入れ期間は最長で5年間とされ、期間中は漁業・養殖に関わる幅広い業務に従事することができます。
特定技能「漁業」は、従来の「技能実習」と異なり、即戦力として現場での労働が前提となる制度であり、転職(他の受け入れ先への変更)も一定条件下で可能です。制度設計上、実務経験者や技能実習2号の修了者など、すでに一定のスキルを持つ人材が対象となる点が特徴です。
実際に、出入国在留管理庁の公表によれば、2024年12月時点で「漁業」分野の特定技能在留者は3,488人にのぼっており、現場での活用が進んでいることがわかります。
参照:【第1表】主な国籍・地域別 特定産業分野別 特定技能1号在留外国人数
特定技能制度が創設された背景
特定技能制度は、日本の漁業・養殖業分野における深刻な人手不足と高齢化に対応するため、2019年に新たに導入された在留資格制度です。特に地方の漁村では、若年層の就業者が減少し、技能の継承が難しくなるなど、現場の維持が大きな課題となっていました。
農林水産省の調査によると、1998年(平成10年)には約27万7,000人いた漁業就業者数は、2018年(平成30年)には約15万1,700人にまで減少しており、20年間でおよそ45%の大幅な減少が確認されています。こうした人材減少に歯止めをかけるため、外国人材の受け入れが検討されました。
また、漁労所得の低さも課題の一つです。2021年の調査によれば、漁業従事者の年間平均所得は約227万円であり、全国平均の給与水準と比べて大きな開きがあります。労働環境の厳しさと収入の低さが、若年層離れに拍車をかけている要因です。
こうした背景を踏まえ、即戦力となる外国人労働者の活用と、漁業技術の継承を両立させるために制度が創設されました。制度の導入により、現場の人手を補い、地域経済の維持や発展につなげることが期待されています。
参照:特集 平成期の我が国水産業を振り返る|(3)漁業就業構造等の変化
特定技能「漁業」の対象業務

ここでは、特定技能「漁業」の在留資格で外国人が実際に従事できる業務内容について詳しく解説します。対象となる作業の具体例を把握することで、採用後の人材配置や業務設計にも役立ちます。
漁業で従事できる業務
漁業分野では、漁具の取り扱いや船上での作業、漁獲物の処理・仕分けなどが主な対象業務とされています。これらは、実務経験と基礎的な安全知識を要する業務であり、外国人労働者も日本人と同様の手順で従事することになります。
例えば、漁具の整備や補修、船上作業の補助、漁獲物の箱詰めや出荷前検品などがあり、繁忙期を中心に外国人材が現場の即戦力として活躍しています。厚生労働省のガイドラインでは、こうした業務に従事する際も日本人と同様の安全教育の実施が求められています。
養殖業で従事できる業務
養殖分野では、魚介類の育成管理、水槽や生け簀の清掃、給餌、水質・温度管理、収穫や出荷準備といった業務が対象です。自然環境下での漁業とは異なり、継続的かつ管理型の作業が多いのが特徴です。
実際には、決まった手順での給餌、水質の測定と調整、病気の予防・管理などが行われており、定期的な点検や記録の管理も重要な業務に含まれます。水産庁が発行する講習資料などでも、事故防止と品質管理を両立するためのマニュアル化が進んでいます。
従事できない業務
一方で、特定技能「漁業」では、外国人が従事できない業務も明確に定められています。たとえば、船長や漁労長などの管理職にあたるポジション、緊急時の判断が求められる業務、経営に関わる判断業務などは制度の対象外です。
これらの業務は、労務管理や安全責任、判断力が強く求められるため、日本人が担うことが前提とされています。受け入れ企業は、業務の割り振りを行う際に制度の対象外業務を明確に区別することが重要です。
厚生労働省および漁業特定技能協議会の運用指針でも、その旨が示されています。
特定技能「漁業」の試験内容

特定技能「漁業」の在留資格を取得するには、所定の技能試験と日本語能力試験に合格する必要があります。ここでは、各試験の目的や内容、学習方法について解説し、受験者が適切に準備できるようサポートします。
漁業技能測定試験の概要
漁業技能測定試験は、漁業や養殖に必要な実務スキルを評価するために実施される試験です。試験内容は、漁具の操作、安全管理、漁獲物の取り扱いといった現場で即戦力として働くための技能が中心です。
試験は「学科」と「実技」に分かれており、作業の正確性・スピード・安全性などが評価されます。水産庁や関係機関が実施する講習・模擬試験に参加することで、受験者は実践的な対策が可能になります。
日本語能力試験(JLPT)の概要
日本語能力試験(JLPT)は、業務に必要な日本語の理解力を測るもので、一般的に「N4」レベル以上の合格が求められます。N4は、基本的な日常会話や簡単な業務指示の理解ができるレベルです。
試験では、語彙・文法・読解・聴解の各分野が問われ、日本での就労に必要な日本語能力の基礎力を確認します。外国人労働者が職場で円滑にコミュニケーションを取るためにも、非常に重要な試験といえます。
試験の合格基準と学習方法
漁業技能測定試験と日本語能力試験の両方に合格することで、特定技能「漁業」の在留資格が取得可能となります。合格基準は分野ごとに60~70点以上とされており、しっかりとした事前準備が求められます。
対策としては、実技に関しては現場研修や模擬訓練、日本語に関しては通信講座や学習アプリの活用が効果的です。地域によっては自治体や教育機関が講習を提供している場合もあり、企業側がその機会をサポートすることも定着支援の一環になります。
特定技能「漁業」の受け入れ条件
外国人を特定技能「漁業」として受け入れるには、企業側にも一定の条件と準備が求められます。制度を適切に運用するためには、法令の遵守だけでなく、労働環境や支援体制の整備も重要です。ここでは、受け入れに必要な主な3つのポイントを紹介します。
受け入れ企業の基本要件
特定技能外国人を受け入れる企業は、労働基準法や社会保険の適用を含む日本の法令をしっかり遵守している必要があります。また、外国人労働者と日本人労働者との間に不当な待遇の差がないことも条件の一つです。
厚生労働省や水産庁の指針により、適切な労務管理や安全衛生管理が行われているかどうかも確認されます。さらに、外国人の活動内容の記録や保管義務もあり、内部体制の整備が必要とされています。
漁業特定技能協議会への加入
特定技能「漁業」では、受け入れ企業が「漁業特定技能協議会」に加盟することが義務付けられています。協議会は、制度の適正な運用を促進し、企業間での情報共有や相談支援の窓口として機能しています。
協議会では、受け入れ前の研修実施、雇用状況の報告、制度に関する最新情報の提供などを行っており、企業にとっても制度活用の支援を受けるための重要なネットワークとなります。
外国人への支援体制の整備
受け入れ企業は、外国人が安心して働き、生活できるようにするための支援体制を構築することが求められます。具体的には、日本語教育の提供、生活に関する相談窓口の設置、行政手続きのサポートなどが含まれます。
支援体制を丁寧に整えることで、外国人労働者が職場に定着しやすくなる傾向があります。特に、日本語学習や生活面でのフォローがある環境では、安心して働けるため、長期的な雇用の安定にもつながりやすいといわれています。
また、支援体制は労働環境の改善だけでなく、企業と外国人の信頼関係を築くうえでも重要です。結果として、従業員満足度や離職率の低下にも良い影響を与えることが期待できます。
特定技能「漁業」を活用する雇用のメリット
特定技能「漁業」制度を導入することで、企業にはさまざまなメリットがあります。ここでは、人手不足の解消をはじめ、現場の効率化や組織活性化といった観点から、主な利点を紹介します。
人手不足の解消
最大のメリットは、慢性的な人手不足への即効性です。農林水産省のデータによれば、漁業就業者数は過去20年で約45%も減少しており、特に若年層の就業が難しい地域では深刻な状況です。
特定技能外国人の受け入れにより、繁忙期の労働力を安定して確保できるようになり、現場での作業遅延や人員不足による負担軽減が期待できます。実際に、多くの地域で制度導入後に漁獲作業の効率化が進んでいます。
業務効率と生産性の向上
受け入れた外国人材は、所定の試験を通過した即戦力であるため、現場への適応も早く、作業の平準化や生産性の向上につながります。技能の習得も進んでおり、業務手順の改善に貢献するケースも増えています。
さらに、安定した人材が確保されることで、従業員間の負担分散や教育の効率化にもつながり、現場全体の稼働率が高まる効果が期待できます。
多様な人材による組織活性化
異なる文化背景を持つ人材の受け入れは、職場に新たな視点や考え方をもたらし、改善提案やイノベーションのきっかけになることもあります。社内コミュニケーションが活性化することで、従業員同士の相互理解も深まります。
企業によっては、外国人材がきっかけで現場のマニュアル化や教育体制の見直しが進んだという報告もあり、組織の柔軟性を高める効果も期待できます。
まとめ
本記事では、特定技能「漁業」制度の概要から、対象業務、試験内容、受け入れ条件、雇用メリットまでを一貫して解説しました。制度の導入により、人手不足の解消や業務効率化、組織の活性化など、現場にとって多くのメリットが期待されます。
一方で、法令遵守や支援体制の整備といった運用面での注意も必要です。企業は制度の特徴を正しく理解したうえで、計画的な受け入れ体制を構築することが、成功のカギとなります。
今後も制度はアップデートされる可能性があるため、水産庁や出入国在留管理庁などの公的機関の最新情報を確認しながら、自社の状況に合った活用を進めていくことが重要です。