本記事では、宿泊業界で外国人材を採用する際に活用される「特定技能」制度について、企業担当者の方に向けてわかりやすく解説します。制度の概要や対象業務、必要な日本語力や試験内容、そして導入メリットまでを幅広くカバーしています。
「人手不足で採用に悩んでいる」「外国人採用に不安がある」という経営者・人事担当者の方に向けて、制度の活用事例や注意点も紹介しながら、実践に役立つ情報をお届けします。
制度の信頼性を高めるために、実績データや最新統計も引用。中小企業の方にも伝わるよう、専門用語をかみくだいてご紹介しています。
この記事からわかること
この記事では、特定技能「宿泊」制度の基本的な仕組みや、外国人が実際に従事できる業務内容、そして企業として注意すべきポイントについてわかりやすく解説します。
また、日本語力や評価試験の基準、制度を活用することで得られる採用メリットも紹介しており、「実際に採用するにはどうしたらいいのか？」という疑問を解消できる内容となっています。
これから外国人材の受け入れを検討したいと考えている宿泊業界の企業・担当者の方にとって、制度を理解し、安心して導入するための情報がぎゅっと詰まった一記事です。
特定技能「宿泊」とは
「特定技能」は、深刻な人手不足が続く業界において、即戦力となる外国人材の受け入れを可能にする在留資格です。2019年4月に制度が創設され、宿泊業もその対象分野に含まれています。
この制度を活用することで、ホテルや旅館などの現場で、一定の技能と日本語能力を備えた外国人労働者を採用することができます。中小企業にとっても、サービス品質や業務効率の向上につながる貴重な人材確保の手段となっています。
特定技能制度の概要
特定技能には、「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類があります。宿泊業は現在、「1号」の対象分野です。
- 特定技能1号：一定の技能と日本語力を持つ即戦力人材。最長5年間の在留が可能。
- 特定技能2号：さらに高度な技能を持つ人材で、現時点では宿泊業は対象外。
宿泊分野では、一般財団法人 宿泊業技能試験センターが評価試験を実施しており、試験に合格した人材のみが特定技能1号として採用可能です。試験では、実際の業務に必要な技能と、日本語での基本的なコミュニケーション能力が問われます。
企業にとっては、試験に合格していることが能力の証明となり、採用後も安心して戦力化を進めることができます。
宿泊分野の特定技能の特徴
宿泊分野では、外国人材がフロント対応、客室清掃、レストランサービスなど、幅広い業務に従事できます。接客業務も含まれるため、一定の日本語能力とホスピタリティが求められます。
多言語対応ができるスタッフは、インバウンド需要にも対応でき、海外からの宿泊客の満足度向上にもつながります。外国語対応を強みにしているホテルでは、口コミ評価やリピート率が上昇した事例もあります。
また、特定技能制度では、従来の「技術・人文知識・国際業務」ビザでは認められなかった単純作業（ベッドメイキングや清掃など）も含めて従事可能です。業務範囲の柔軟性が高く、現場の実態に即した運用ができるのも特長です。
実際、出入国在留管理庁の発表によると、2024年12月末時点で特定技能「宿泊」の在留外国人数は671人にのぼっています。制度開始から数年が経過し、全国の宿泊施設で徐々に導入が進んでいることがうかがえます。
参照：出入国在留管理庁【第１表】主な国籍・地域別 特定産業分野別 特定技能１号在留外国人数 （2024年12月末）
関連記事：宿泊分野の特定技能とは？働く場所や求められる要件を解説！
特定技能「宿泊」の対象業務
宿泊分野において特定技能で従事できる主な業務は、フロント対応や清掃業務、レストランサービスなど、宿泊施設の運営に必要な幅広い業務が対象となります。
これまで「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格では従事が難しかった一部の業務も、特定技能では明確に認められているため、実際の現場で柔軟な配置が可能になっています。
人手不足に悩む宿泊業界では、こうした業務範囲の広さが特に注目されており、導入企業からも「現場にフィットしやすい」といった声が多く寄せられています。
ここでは、外国人が実際に従事できる業務内容と、その背景について詳しく解説します。
外国人が従事できる業務
- フロント業務（チェックイン・チェックアウトなど）
- 予約・案内業務
- 施設や周辺観光案内
- ベッドメイキングや清掃
- 飲食サービス（レストラン対応 など）
特定技能「宿泊」では、これらの宿泊施設運営に必要な業務に広く従事することが可能です。特にフロントや案内業務など、宿泊客との直接的なコミュニケーションを伴う業務も含まれている点が特徴です。
多くの宿泊施設では、チェックイン時の対応や施設案内が顧客満足度に大きな影響を与えるとされており、接客対応ができる外国人材の存在は、顧客体験の質を高める重要な戦力となります。
特に訪日外国人観光客に対しては、英語や中国語などの多言語対応が評価され、利用者の安心感にもつながっています。
たとえば、東京都内のある中規模ホテルでは、フロントに英語・韓国語対応が可能な外国人スタッフを配置した結果、外国人宿泊客からのレビュー評価が向上し、予約件数も着実に増加したと報告されています。
このように、語学力だけでなく、多様な文化への理解や柔軟な接客対応ができる点で、外国人スタッフは宿泊施設に新しい価値をもたらしています。
特定技能制度の活用によって、単なる人手不足の解消だけでなく、サービス品質の向上にもつながることが実感され始めています。
ベッドメイキングなどの付随業務
宿泊施設では、フロントや接客業務だけでなく、ベッドメイキングや清掃といった裏方の業務も、宿泊体験全体の質を左右する重要な要素です。
特定技能「宿泊」では、これらの付随業務も対象範囲に含まれており、外国人労働者が実務にすぐ馴染めるよう制度設計がなされています。従来の在留資格では制限のあった業務にも柔軟に対応できるため、現場の業務負担を効果的に分散できるのが特徴です。
たとえば、客室の清掃やベッドメイキングは、清潔感や快適性に直結する業務であり、宿泊客の満足度や口コミにも大きく影響します。丁寧な清掃体制を維持することは、リピート利用や高評価レビューの獲得にもつながります。
実際に、あるリゾートホテルでは、特定技能で採用した外国人スタッフがベッドメイキングに従事し、「部屋がいつも清潔で気持ちよく滞在できる」といった評価を受けるようになったとの報告もあります。
このように、清掃やベッドメイクといった業務は単なる補助業務ではなく、宿泊施設全体の評価やブランド価値に関わる重要なポジションです。外国人スタッフがこれらの業務を担うことで、現場の人手不足を補うだけでなく、サービスの安定化・質の向上にもつながります。
従事できない業務
特定技能「宿泊」では幅広い業務に従事できますが、すべての業務が認められているわけではありません。制度上、従事が認められていない業務については、採用企業側があらかじめ理解しておく必要があります。
たとえば、以下のような業務は対象外とされています：
- 危険物の取り扱いを伴う業務（例：ボイラー室での作業など）
- 専門資格が必要な医療・福祉・調理業務（調理師免許を要する調理など）
- 高度な管理・マネジメント業務（支配人業務など）
- 防災管理・深夜警備など、高度な責任を伴う業務
これらの業務は、安全性や専門性の観点から、在留資格の対象として適切ではないと判断されています。特定技能制度は「即戦力の担い手」としての活躍を期待する制度ですが、あくまで制度上で認められた範囲での従事が前提です。
また、現場の実態としては「採用後に想定外の業務を任せてしまっていた」というケースもあるため、業務内容は雇用契約時点で明確にしておくことが大切です。制度に則った適切な運用が、企業と外国人労働者双方にとって安心・安全な雇用関係を築く鍵となります。
特定技能制度を活用する際は、従事可能な業務と制限されている業務の線引きを正しく理解したうえで、人材配置や教育体制を整備しましょう。
必要な日本語レベルと試験情報
ここでは、特定技能「宿泊」を取得するために必要な日本語能力や、評価試験の内容について解説します。外国人を採用する企業としては、「どの程度の日本語力があれば業務に支障がないのか」「試験では何が問われるのか」を事前に把握しておくことが重要です。
実際の業務では、宿泊客との会話、スタッフ間での情報共有、マニュアル理解など、日本語でのやりとりが不可欠です。特定技能では、こうした実務をこなせるレベルの語学力と業務スキルを事前に評価する仕組みが整えられています。
求められる日本語能力試験レベル
特定技能「宿泊」では、外国人労働者に日本語能力試験（JLPT）N4以上の語学力が求められています。これは、日常的な会話や業務連絡をある程度問題なく行えるレベルです。
JLPT N4は、「基本的な日本語を理解できること」が基準となっており、特定技能の宿泊分野で求められる接客対応や社内コミュニケーションにも対応可能とされています。
企業側にとっても、日本語能力が一定以上ある人材を採用することで、指示伝達の齟齬や顧客対応時のトラブルを避けやすくなります。結果として、職場でのストレス軽減や定着率向上にもつながるでしょう。
なお、日本語能力の証明方法としては、JLPT N4または、国際交流基金日本語基礎テスト（JFT-Basic）のいずれかに合格していることが要件となっています。
宿泊分野特定技能評価試験について
宿泊分野の技能評価試験は、一般財団法人 宿泊業技能試験センターが実施しています。試験は「学科」と「実技」に分かれており、宿泊業務に必要な知識と実務スキルの両方が問われます。
出題範囲は、フロント対応、客室サービス、レストラン業務、衛生管理、安全対策など、多岐にわたります。実際の業務を想定した設問やシチュエーションが出題されるため、実務経験や対策講座が効果的です。
たとえば、2024年2月に実施された国内試験では、受験者489人に対し合格者は314人で、合格率は約64.2%となっています（出典：宿泊業技能試験センター）。
この数字からもわかるように、しっかりと準備した上で受験すれば十分合格が見込める内容となっています。企業側も、合格者であれば基本的な業務に対応できる水準であると判断できます。
参照：宿泊分野特定技能評価試験1号・2号 2024年1月～12月の受験者数・合格者数・合格率のご報告
試験合格者はここまでできる！即戦力としての強み
特定技能「宿泊」の評価試験に合格した外国人材は、宿泊業務に必要な知識とスキルを身につけており、現場で即戦力として活躍できる水準にあります。
試験では、フロント対応やレストランサービス、客室管理、安全衛生といった業務に関する学科と実技が出題され、合格者はこうした業務を基本的に一通りこなせる力があると評価されています。
日本語での対応も一定レベル以上で、宿泊客とのやりとりや社内連携にも対応可能です。
また、試験合格に向けては、多くの受験者が専門講座や模擬試験を通じて、実務に即したトレーニングを受けています。これにより、単なる座学では得られない現場対応力やホスピタリティの意識も備わっており、入社後すぐに現場に入れるケースも少なくありません。
企業としては、採用時に「評価試験合格済み」という点を確認することで、即戦力人材を見極めるひとつの基準になります。さらに、試験前後に学習支援や受講環境を整えることで、スムーズな就業と定着にもつながります。
「外国人だから不安」という時代は終わりつつあります。しっかりと制度に則って試験に合格した人材は、日本人スタッフと同様に現場で活躍できる存在です。企業の成長を支える新しい力として、積極的に迎え入れる価値があります。
外国人材の採用に特定技能「宿泊」を活用するメリットとは
人手不足が深刻化する宿泊業界において、即戦力として外国人材を採用できる「特定技能」制度の活用が注目されています。単に人手を補うだけでなく、サービス品質の向上や業務の効率化、多言語対応といった側面からも、企業にとって大きなメリットがある制度です。
とくに、宿泊分野ではフロント業務から客室清掃、レストランサービスまで幅広い業務が対象となっており、現場での柔軟な人材活用が可能です。ここでは、特定技能「宿泊」を導入することで得られる主なメリットについて、5つの視点から詳しく解説します。
即戦力として現場を支える外国人材の存在
特定技能「宿泊」の制度を活用することで、すでに業務に必要な知識とスキルを持った外国人材を採用することができます。評価試験に合格しているため、チェックイン対応や清掃、レストラン業務などの現場業務にすぐ対応できる点が大きな強みです。
これにより、教育コストの削減や、繁忙期の即戦力確保といった実務的な効果が期待できます。経験の浅い日本人スタッフと組み合わせて業務を分担することで、全体のパフォーマンス向上にもつながります。
多言語対応でインバウンド需要にも対応可能
外国人スタッフが持つ語学力や異文化理解力は、訪日観光客へのサービス向上に直結します。英語、中国語、韓国語など、さまざまな言語での対応ができるスタッフを配置することで、外国人宿泊客の満足度やリピート率の向上が見込めます。
多言語対応が可能なホテルは口コミ評価でも差別化でき、他施設との差をつける競争力にもつながります。今後さらにインバウンド需要が回復していく中で、大きなアドバンテージとなるでしょう。
幅広い業務範囲に対応できる柔軟性
従来の在留資格では対応できなかったベッドメイキングや清掃といった“単純作業”も、特定技能では対応可能です。これにより、現場の人手不足をピンポイントで補いながら、柔軟な人材配置が可能になります。
特に中小規模の宿泊施設では、ひとりのスタッフが複数業務を兼任する場面も多く、こうした制度の柔軟性が実務にフィットしやすいのも特徴です。
定着・育成による中長期的な人材戦略にもつながる
特定技能は、制度上最長5年の就労が可能なため、短期的な補充にとどまらず、中長期的な人材戦略にも活用できます。継続的に働いてもらうことで、現場の流れや接客スタイルにもなじみ、スタッフ間の連携やチーム力も高まっていきます。
また、受け入れ企業が研修やサポートを整えることで、外国人スタッフの定着率も向上します。「戦力化した後にすぐ辞めてしまう」といった課題を回避しやすくなるのも、大きなメリットです。
制度が整備されているから導入しやすい
特定技能制度は、評価試験や在留資格の審査など、導入の仕組みがしっかり整備されており、受け入れ企業向けのガイドラインやサポート体制も充実しています。
技能実習に比べて企業の負担が少なく、転職も可能であることから、外国人労働者にとっても働きやすい制度です。結果として、双方にとって無理のない形での就労環境が実現しやすくなっています。
まとめ
特定技能「宿泊」は、単なる人手不足の解消手段ではありません。多言語対応力や現場力、定着性といった観点からも、宿泊施設のサービス品質や運営体制の強化に直結する制度です。
今後の採用戦略や事業拡大を見据え、制度を上手に活用することで、企業全体の成長にもつながることが期待できます。外国人材の採用を前向きに検討する企業にとって、大きなチャンスとなるはずです。
