外国人が日本において就労するためには、就労可能な在留資格を取得していなくてはなりません。就労可能な在留資格には「人文知識・国際業務」や「法律・会計業務」等の様々な種類がありますが、2019年から新たに就労可能な在留資格として「特定技能」が創設されました。
当記事では、新しい在留資格である特定技能についての概要や技能実習との違い、取得要件等について解説をします。外国人の雇い入れを考えている方や在留資格に興味のある方は、ぜひ参考にしてください。
在留資格「特定技能」とは
在留資格としての「特定技能」は、国内において人材を確保することが難しい一定の産業分野において、外国人人材を受け入れることを目的として、2019年4月に創設された新しい在留資格です。
2022年6月末における特定技能の在留資格を持つ外国人は、約87,000人となっており、2021年6月末の約23,000人から1年で4倍弱と大幅な増加が見られ、人材確保のため大いに活用されている制度であることがわかります。
国籍別の内訳では、約53,000人のベトナムが圧倒的多数を占めており、インドネシア、フィリピン、中国が続く形となっています。特定技能は、創設されたばかりのまだ新しい在留資格ですが、その増加率は非常に高く、日本の労働力不足解消や外国人人材の活用を考える上では、既に欠かすことのできない制度です。
「特定技能」と「技能実習」の違い
特定技能に似た在留資格に「技能実習」が存在します。特定技能も技能実習も就労可能な在留資格であることに違いはありませんが、両制度は創設された目的が大きく異なっています。
既に述べた通り、特定技能は人材を確保することが難しい産業分野における人材確保のために創設された制度であり、労働力の確保が目的です。これに対して技能実習は、母国では習得困難な知識や技能、技術を日本で身に付け、身に付けた知識等を母国で活かすことを目的とした国際協力のための制度となっています。
技能実習は、就労可能な在留資格ではありますが、あくまでも知識技術の習得が本来の目的です。そのため技能実習法の基本理念にも「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と定められており、労働力不足解消を目的とした特定技能とは根本的に異なった制度となっています。
「特定技能1号」と「特定技能2号」の違い
特定技能は1つではなく、「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類が存在します。
特定技能1号は、労働力不足であるとされた特定の産業において、相当程度の知識と技能を有する外国人に認められた在留資格です。
これに対して、特定技能2号は、特定の産業において熟練した技能を有する外国人に認められた在留資格であり、1号よりも高い技能が求められています。
特定技能1号と特定技能2号の主な違いは次の通りです。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
在留期間 | 最長5年間 | 上限なし |
家族の帯同 | 原則不可 | 要件を満たせば可能 (配偶者、子) |
対象分野 | 12分野 | 2分野 |
日本語能力水準 | 試験等で確認 | 試験等での確認は不要 |
技能水準 | 試験等で確認 | 試験等での確認に加え、一定の実務要件を要する |
受入れ機関又は登録支援機関による支援 | 対象 | 対象外 |
永住権取得の可否 | 不可 | 可能 |
「特定技能」による外国人の受入れ分野(特定産業分野)
特定技能で就労できる産業分野(特定産業分野)は、次の通りです。
特定技能1号
- 介護
- ビルクリーニング
- 素形材・産業機械・電子機器情報関連製造業
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
2022年5月に素形材産業、産業機械製造業、電子情報関連産業の製造業3分野が統合され、それまでの14分野から12分野へ統合変更されました。
特定技能2号
- 建設
- 造船・舶用工業
特定技能1号は、12分野と幅広く認められているのに対して、特定技能2号は熟練した技能を持つ外国人を対象としているため、建設と造船・舶用工業のわずか2分野でしか受け入れが認められていません。また、在留資格として特定技能が創設されたことにより、それまで一部例外を除き、外国人の就労が認められていなかった製造業等の単純労働においても就労可能となったことが大きな特徴です。
「特定技能」の取得要件
特定技能外国人は、日本において労働力不足の状態である特定産業分野の即戦力として就労することが期待されています。そのため特定技能を取得するには、特定産業分野における一定以上の知識や技能を保有していることを証明する必要があり、技能試験や日本語能力試験等の合格が取得要件として設けられています。
「特定技能1号」の取得要件
特定技能1号を取得する方法は、技能実習2号を修了しているか否かによって異なります。技能実習には、1号、2号、3号が存在しており、技能実習初年度に付与される1号に対して、技能実習2号及び3号は習得した技能を更に習熟・熟達させるために設けられた在留資格です。
技能実習2号を修了していない場合には、対象となる産業ごとの特定技能試験と日本語試験に合格することが必要です。試験に合格することで、対象となる産業において就労するに足りる知識や技能、日本語能力を有することを証明します。
特定技能1号において必要とされる技能は、相当期間の実務経験を積まなければできない技能であって、特段の教育訓練を受けることなく、直ちに一定程度の業務に就くことが可能となる水準であることが要求されます。
また、日本語能力においては、基本的な日本語を理解できる水準である日本語能力試験N4以上を取得、または、国際交流基金日本語基礎テストのA2レベルが必要とされます。ただし、介護分野においては、通常の日本語試験に加えて、介護日本語評価試験にも合格することが必要です。
技能実習2号を良好に終了している場合には、既に対象となる産業における技能や日本語能力を有すると評価されるため、特定技能試験と日本語試験の双方が免除されます。特定技能試験の免除は、対象となる分野と同分野の技能実習2号を修了している場合に限られるため注意が必要です。
「特定技能2号」の取得要件
特定技能2号を取得するためには、原則として特定技能1号を修了し、特定技能2号評価試験に合格した上で、実務経験要件を満たす必要があります。特定技能2号評価試験が開始されたのは2021年からで、2022年4月に岐阜県の中国籍男性が、全国で初めて建設分野において特定技能2号に認定されました。
また、特定技能1号として対象産業に従事していたからといって、自動的に2号に移行できるわけではありません。ただし、特定技能2号の水準に相当する高い技能を有すると試験等で認められれば、特定技能1号を経ることなく、特定技能2号を取得できる可能性もあります。
なお特定技能2号は、原則として特定技能1号を経ていることを前提とした資格であり、改めて日本語能力を審査する必要は乏しいと判断されるため、日本語能力試験は不要となっています。
特定技能外国人を受入れるまでの流れ
受け入れ先機関等において、特定技能外国人を受け入れるまでの流れは、次のようになります。括弧内は、新規入国ではなく、既に日本に在留している場合です。
- 1. 来日予定又は既に日本に在留している外国人が、特定技能試験等に合格
- 2. 外国人が求人募集に直接申し込む又は、職業紹介事業者のあっせんを受ける
- 3. 受け入れ先機関等と雇用契約を締結
- 4. 在留資格認定証明書交付申請(在留資格変更許可申請)
- 5. 地方出入国在留管理局による審査
- 6. 在留資格認定証明書交付(変更許可及び在留カードの交付)
- 7. 受け入れ先機関等へ在留資格認定証明書送付(既に在留している場合は不要)
- 8. 査証申請及び審査の後、査証発給し入国(既に在留している場合は不要)
- 9. 受け入れ先機関等で就労開始
特定技能に関するよくある質問
特定技能は、2019年4月に創設された比較的新しい制度です。そのため特定技能外国人を受け入れようとする場合や、特定技能の取得を考えている場合には、活動内容の制限であったり、資格の有効期間であったりと様々な疑問が生じてきます。
次からは、特定技能におけるよくある疑問について詳しく解説を行っていきます。
特定技能でアルバイトはできる?
外国人がアルバイトを行う場合には、資格外活動許可を受ける必要があります。資格外活動許可の対象となる在留資格は、留学、家族滞在、特定活動等となっており、フルタイムで働くことを前提とする特定技能は対象となっていません。
特定技能は、特定産業分野における即戦力であることを期待されており、臨時的短時間の雇用であるアルバイトやパートといった雇用形態とは馴染まず、雇用する場合には原則として、労働日数が週5日以上かつ年間217日以上であって、かつ週の労働時間が30時間以上のフルタイム雇用であることが求められています。
特定技能は最大何年?
特定技能1号の在留期間は、1年、6ヶ月、または4ヶ月となっており、更新の手続きを行うことで最大5年間の在留が可能です。これに対して特定技能2号は、更新こそ1号と同様に行わなければなりませんが、在留期間の上限は設けられていません。
特定技能は何歳まで?
特定技能は、18歳以上であることを要するという制限は設けられていますが、他に年齢に関する制限はありません。18歳以上であって、技能や日本語能力が一定以上の水準に達していると試験等で認められれば、学歴を問わず取得可能です。
おわりに
特定技能は、2019年から始まった比較的新しい制度ですが、取得者の増加率は非常に高く、労働力不足に悩まされている特定産業分野においては、今後ますます重要な存在になると考えられます。
また、特定技能は特定産業分野の中でも、特に製造業、建設、介護、農業分野において需要が高くなっており、介護を除いたこれらの分野は特定技能2号への拡大も検討されているため、労働力不足解消に向け、より制度の活用が進むことが予想されます。
当記事では、特定技能の概要や1号と2号の違い、取得要件等について解説を行ってきました。少子高齢化により、生産年齢人口の縮小が続く日本では、労働力の確保が喫緊の課題となっています。労働力不足に悩む特定産業分野の事業者は、是非当記事を参考にして、特定技能外国人の活用を行ってください。
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